CEOへの転職を考えて求人サイトを検索しても、案件はほぼ見つからない。これは探し方の問題ではない。CEOの席は「欠員の補充」ではなく、資本の動きという出来事から生まれ、公募に出ないままヘッドハンターを介して水面下で決まるからだ。だから準備の中心は「探し方」ではなく、出来事が起きたときに名前が挙がる状態を作っておくことになる。

CEOの席は「求人」ではなく「出来事」から生まれる

一般の採用は、組織の欠員や増員計画から生まれる。CEOの採用は違う。会社の資本構成や支配権が動く局面──つまり会社そのものが変わる出来事と同時に発生する。代表的な局面は4つある。

PEファンドが企業に投資したとき。 ファンドは投資先の企業価値を数年で高めて売却する。その中核が経営体制の組み直しで、投資の実行が決まった段階から、外部の経営者を探す動きが始まる。投資と経営者探しはセットで進む。

事業承継。 後継者のいないオーナー企業が、親族でも社員でもない第三者に経営を委ねる決断をしたとき。ファンドが間に入る形も、オーナーが直接招く形もあるが、いずれも「会社を残す」という意思決定と同時にCEOの席が生まれる。

カーブアウト(事業の切り出し)。 大企業が事業部門や子会社を切り出して独立させるとき、その新会社には経営トップがいない。親会社から出向させる場合を除けば、外部から招くことになる。

成長の踊り場・再生局面。 創業者が自分の限界を認めたとき、あるいは業績悪化で株主が経営交代を決めたとき。これも平時ではなく、資本側の意思決定が引き金になる。

4つに共通するのは、CEOの採用が「日常の人事」ではなく「資本の意思決定の一部」だということ。日常的に発生するものではないから、市場に「常に出ているCEO求人」というものが存在しない。

どの局面でも、入口はヘッドハンターに集約される

ではその案件はどう動くのか。上場企業の経営トップ招聘も、PEファンド投資先も、事業承継も、実務上の入口はほぼ一つに集約される。サーチ会社(ヘッドハンター)への非公開の依頼だ。

公募が使われないのには、構造的な理由が3つある。

  1. 機密性。 CEO交代は、公になった瞬間に株価・取引先・社内に影響する。現任者の処遇が決まる前に外へ漏らせないし、PEの投資案件なら投資自体が未公表のことも多い。求人票を公開すること自体が経営情報の開示になってしまう
  2. 選考方式が成立しない。 応募の束から絞り込む方式は、母集団が大きい採用のためのもの。経営者の適否は書類では判定できず、そもそも「応募してくる人」と「経営を任せたい人」が一致しない
  3. 期限がある。 投資の実行日、承継の期日、切り出しの発効日。出来事には日付があり、そこまでに経営体制を固める必要がある。ゼロから母集団を作る時間はなく、既に候補者を把握している会社に頼むことになる

つまり、社内昇格という別世界を除けば、外からCEOに就く道は「どの局面か」を問わずヘッドハンター経由に収斂する。候補者から見える違いは入口ではなく、その先──どの局面の案件を持っている会社と繋がっているか──にある。

「声がかかる人」と「かからない人」を分けるもの

サーチ会社は依頼を受けてから母集団を作るのではなく、把握している経営人材の中から数名に絞って声をかける。この「把握されている側」に入れるかどうかを分ける要素は、実績の華やかさとは少し違う。

経歴が局面に翻訳できること。 再生局面で求められる経営者と、成長企業のアクセルを踏む経営者と、オーナーの想いを引き継ぐ承継の経営者は、別の人物像だ。「何でもできます」は、どの局面にも翻訳できないため選ばれない。自分の経験がどの局面に効くのかを、本人が言語化できているかが問われる。

実行の証拠があること。 役職と在籍期間の羅列は、経営人材の選考では読まれない。どの局面で、何を意思決定し、どの数字がどう動いたか。特に「自分が決めたこと」と「組織がやったこと」を区別して語れるかは、面談で必ず見られる。

第三者が語れること。 経営者の選考は、書類より人づての比重が大きい。元上司、株主、取引先──あなたの仕事ぶりを具体的に語れる人がいるか。レファレンスに耐える働き方をしてきたかは、直前には取り繕えない。

準備は、転職を決める前に始まっている

出来事はいつ起きるか分からない。声がかかってから準備を始めると、案件の期限に間に合わない。逆に言えば、いま転職を決めていなくても、できる準備が3つある。

  1. 職務経歴書を「実行の証拠」に書き直す。 上に書いたとおり、意思決定と数字で語る形に組み替える。これは声がかかった後では時間が足りない
  2. 自分が張れる局面と条件を定義しておく。 再生か、成長か、承継か。勤務地はどこまで動けるか。報酬は固定・変動・株式をどう考えるか。この整理が曖昧なまま案件に触れると、判断を誤る。報酬の考え方は「年収ダウンの転職」は是か非かで詳しく書いた
  3. 案件を持つ会社と、動く前から接点を持つ。 候補者として把握されてから声がかかるまでには時間差がある。「その気になったら市場に行く」のでは、次の出来事に間に合わない

活動を始めてからの落とし穴は【CEOの転職】失敗を防ぐための「捨てる」決断にまとめている。

CEOへの転職は、求人を探す活動ではない。会社が変わる出来事が起きたとき、検討リストに自分の名前が載っている状態を作る活動だ。当社はPEファンド投資先や事業承継をはじめとする非公開の経営ポジションを扱っている。経歴を登録しておけば、条件に合う案件が動いたときに連絡が届く。