CFO転職の成否は、本人の力量より座る席の側の条件で大きく決まる。分かれ目は、そのポジションが「資本の予定表から逆算して生まれた席」なのか、「管理部門を強くしたいという漠然とした願望から生まれた席」なのかという違いにある。前者は成功の定義が着任前に確定しているが、後者は着任後に動く。そして、この違いは選考の段階で見分けられる。
成功の定義は、席によって最初から違う
CFOのポジションは、生まれ方で二つに分かれる。
ひとつは、資本の側の出来事から逆算して生まれた席だ。上場申請の期日が決まった。ファンドが投資を実行し、保有期間中に到達すべき数字が引かれた。買収を実行して、統合の期限が切られた。借入の条件見直しが迫っている。こうした席には、いつまでに何が起きていなければならないかが、採用を決める前から存在する。CFOはその到達点に対して雇われる。
もうひとつは、課題感から生まれた席だ。「経理部門は回っているが経営の数字が見えない」「そろそろ財務のトップが必要だ」。こちらは動機としては正当だが、到達点が言語化されていない。何をもって成功とするかが、まだ誰の手元にもない状態で採用が始まる。
求人票の文面では、この二つはほとんど区別がつかない。どちらも「経営管理体制の強化」「資本政策の立案」と書かれる。だが着任後に起きることは、まったく違う。
定義がない席では、同じ働きが違う評価になる
到達点が言語化されていない席で何が起きるか。評価が、経営者のその時々の関心事に従属するようになる。
関心事は動く。業績が良ければ攻めの投資に関心が向き、悪くなればコスト構造に向く。資金繰りが逼迫すれば銀行対応が最優先になり、落ち着けば「もっと事業に踏み込んでほしい」に変わる。CFOの側が同じ質の仕事を続けていても、評価軸のほうが動くのだから、評価は安定しない。
さらに厄介なのは、定義がない席ではやらなかったことで減点されるという点だ。到達点が事前に合意されていれば、そこに向かっていない仕事は「今はやらない」と正当に説明できる。合意がなければ、経営者が思いついた領域はすべて「CFOの守備範囲なのに手が付いていない」ことになる。守備範囲が事後的に広がり続ける構造で、これは能力では解決できない。
決裁権限は、肩書きではなく規程に書いてある
もうひとつ、着任後には動かしにくい条件がある。決裁権限だ。
日本企業の多くは職務権限規程と取締役会付議基準で、誰が何をいくらまで決められるかを定めている。CFOという肩書きが与えられていても、投資の決裁、人員計画の承認、資金調達の実行判断が代表取締役に留保されたままなら、実務上できることは財務部長の職務と大きく変わらない。
そしてこれは、着任してから変えるのが難しい。権限規程の変更は取締役会の議題であり、実質的には「社長の権限を自分に移してほしい」という提案を、着任間もない自分が起案することになるからだ。条件交渉の段階なら「役割を果たすために必要な権限」として自然に議論できたものが、着任後には権力の要求に見えてしまう。順番が逆になると通らない。
だから、規程上どこに決裁があるかは、入社前に確認する。「規程を見せてほしい」とまで言わなくても、「このポジションが単独で決められる範囲はどこまでですか」と聞けば、答えの具体性で分かる。
任命者と評価者が別なら、成功の定義は二つある
ファンドの投資先や、買収された企業のCFOでは、招聘を主導するのが株主側で、日常の評価をするのが社長というねじれが起きやすい。
このとき、二人の時間軸が違う。株主が見ているのは保有期間全体の企業価値であり、社長が見ているのは今期の着地だ。どちらも正当な関心で、対立しているわけではない。ただし優先順位が食い違う局面は必ず来る。設備投資を先送りすれば今期は良くなるが、数年後の企業価値は下がる、といった判断がそれにあたる。
この板挟みは、個人の調整力の問題ではなく構造の問題だ。だから、和を保つ努力ではなく、報告の設計で扱う。誰に、どの頻度で、何を報告するのか。判断が割れたときに最終的に決めるのは誰か。これを着任前に決めておけば、板挟みは意思決定のプロセスに変換される。決めずに入ると、個人の人間関係の問題として消耗する。
選考中に確かめる四つの質問
ここまでの条件は、次の四つを聞けばおおむね判別できる。重要なのは質問そのものより、誰の口からどれだけ具体的に答えが返るかだ。
- この席は、いつ、何が起きて必要になったのですか。 答えが出来事(投資の実行、上場申請、買収、承継、借換え)なら前者の席。「前任者が退任した」「そろそろ必要だと思った」なら後者の可能性が高い。
- 一年後に何が起きていれば、この採用は成功だったと言えますか。 複数の面接官に同じ質問をして、答えが揃うかを見る。揃わない場合、成功の定義はまだ社内に存在しない。
- 予算編成と投資決裁は、規程上どこにありますか。 即答できないなら、権限は実質的に慣行で運用されている。慣行は明文より動かしにくい。
- 前任者は、何ができなくて退任したのですか。 答えが人格や相性の話に終始する場合、構造的な原因が未解決のまま残っている。次に座る人にも同じことが起きる。
在任中に通過した出来事が、次の市場価値になる
もう一段先を考えておきたい。CFOの市場価値は、在任年数ではなく在任中に通過した出来事の数と種類で測られる。資金調達、上場、買収の実行と統合、資本構成の組み替え、事業の売却。次の選考で問われるのは「何年やったか」ではなく「何を経験したか」であり、経験は席が用意してくれるものだ。
この観点に立つと、判断が変わることがある。出来事の予定がない安定した席は、在任中は穏やかでも、三年後の選択肢を確実に狭める。逆に、期限の切られた難しい席は、通過さえすれば市場価値の形が変わる。どちらを選ぶかは個人の事情によるが、安定した席が安全とは限らないことは意識しておいたほうがいい。
最初の九十日は、数字を作り直す前に作られ方を辿る
条件の良い席に座れたとして、着任後に最初にやるべきことにも順序がある。
予実が慢性的に外れる会社では、精度を上げる施策を打つ前に、予算がどう作られているかを辿る必要がある。多くの場合、予算は現場の希望や前年比の伸び率から積み上がっていて、前提の妥当性が誰にも検証されていない。作られ方を放置したまま管理会計の粒度を細かくしても、細かく外れるようになるだけだ。
同じことは資金繰り表にも、事業別採算にも言える。数字を直すのではなく、数字が生まれる過程を辿る。地味だが、ここを飛ばした改善はほぼ確実に元に戻る。
CFO転職で難しいのは、能力を上げることより、条件の良い席の存在を知ることだ。前者の席、つまり資本の予定表から生まれた席は、そもそも公募に出ないことが多い。当社は、PEファンドの投資先や事業承継の局面で生まれる、公開されない経営ポジションを扱っている。どのような席が動いているかを知りたい方は、経営者としてのキャリアをお考えの方へをご覧いただきたい。
なお、CFO転職の難易度そのものについてはなぜ「CFOの転職は難しい」と言われるのかでも扱っている。
