経理・財務・人事・法務・経営企画・情報システム。こうしたコーポレート機能の責任者が転職するとき、企業側は最初から二つの値付けを同時に走らせている。 ひとつは「その機能の専門家」としての値段、もうひとつは「経営チームの一員」としての値段である。
同じ職務経歴書が、片方では部長クラスの補充として読まれ、もう片方ではCxO候補として読まれる。そして両者は年収でも権限でも別の世界にある。
分けているのは、年次でも会社の規模でも、いま取締役かどうかでもない。自分の機能の外側で、何を決めたことがあるかである。以下、なぜそこで分かれるのかを構造から書く。
事業部門の責任者と、コーポレート機能の責任者では、証明の手段が違う
事業部門の責任者には、売上と利益という外から見える指標がある。数字を持っていたという事実そのものが、経営の一部を任されていた証拠になる。良し悪しの評価は分かれても、「何を任されていたか」の説明は要らない。
コーポレート機能には、それがない。経理は経理の完成度で、人事は採用充足率と離職率で、法務は案件処理と事故の少なさで評価されてきた。どれも自分の機能の内側で閉じた指標である。 機能として優秀であればあるほど、その優秀さは「機能の中で」証明される。
ここに非対称が生まれる。事業側の人は黙っていても経営の経験者として扱われ、コーポレート側の人は明示的に示さないかぎり機能の専門家として扱われる。これは評価者の偏見ではなく、手がかりの構造そのものの違いである。
経営チームの一員かどうかは「機能を犠牲にした判断」で測られる
では何が手がかりになるのか。選考の場で決定的に効くのは、自分の機能の最適解と全社の最適解がぶつかったときに、機能側を譲る判断を自分が下したことがあるかという一点である。
- 財務: 手元資金を厚く持ちたい財務の論理を譲って、どの事業の投資を通したか。その条件は何か
- 人事: 全社一律の等級運用を崩して、どの部門に人件費の枠を多く配ったか。誰と、何を根拠に決めたか
- 法務: 取らないのが安全なリスクを、取ると決めた案件はあるか。何を条件に取ったか
- 経営企画: 自部門が作った計画を、現場の反論を受けて下方に書き換えた経験はあるか。どこを守り、どこを捨てたか
こう並べると分かるが、いずれも**「機能の完成度を下げる方向の意思決定」**である。機能の責任者としては失点に見えかねない。しかし経営チームは、全社の資源配分の場で自分の持ち場を相対化できる人を探している。この経験がある人とない人の差は、面接の序盤で露呈する。
機能の中だけで完結した実績を並べる人は、その機能の専門家としての値段で止まる。止まること自体は悪くない。ただし、CxOの席を狙っているのに機能の専門家として値付けされていると、選考は進んでいるのに条件が想定より低いという形で表れる。そのとき交渉しても、もう遅い。
資本イベントの経験が効くのは、検証しやすいからである
※資本イベントとは: M&A(買収・売却)、資金調達、株式上場、PEファンドによる買収など、会社の株主構成や資本の使い道が大きく動く出来事を指す。日常の事業運営とは意思決定の速度も関与者も違う。
コーポレート機能の責任者を評価するとき、資本イベントの経験が重く見られる理由も同じところにある。資本イベントは、機能の壁を越えた意思決定が短期間に、記録の残る形で発生する場だからだ。誰が何を決めたかを、あとから検証できる。
ただし「その局面に居た」だけでは効かない。買収のデューデリジェンスに参加した、上場準備に関わった、という書き方は、専門家としての値付けを強めこそすれ、経営チーム側には動かさない。効くのは自分が何を決め、何を通し、何を諦めたかが書かれているときだけである。関与ではなく決裁を書く。
求人票からは実態が読めない。だから質問で確かめる
厄介なのは、募集側も自分がどちらを探しているのか、言語化できていないことが多い点だ。「CFO募集」と書かれた案件の実態が経理部長の補充であることは珍しくないし、逆に「管理部長」の募集が実質的に経営チームの席であることもある。肩書きから実態は読めない。
初回の面談で確かめる質問は、次の3つで足りる。
- この席は取締役会(または経営会議)に、報告者としてではなく構成員として出るのか
- 来期予算の一次案は、誰が作って誰が削るのか。その場にこの席は居るのか
- 前任者は何をした人で、なぜこの席が空いたのか
3つ目がいちばん効く。前任が機能の専門家として採られて機能の中で完結して辞めているなら、席の性格は変わっていないと考えたほうがいい。募集要項の言葉ではなく、前任の実像が席の正体を語る。
同じ構図は人事系の転職でも起きる。市場価値が「人事部長」に矮小化される仕組みについては【CHRO候補向け】あなたの市場価値を「人事部長」に矮小化する転職エージェントの構造的罠で詳しく書いた。また、肩書きではなく「誰に責任を負っていたか」で通用する経験が変わる話は社長の転職で見られているのは肩書きではないにまとめてある。
書き換えるべきは経歴書の構成である
以上を踏まえると、職務経歴書で直すべき場所は決まる。機能別の業務範囲を網羅する構成をやめ、機能の外側で下した判断を先に置く。
- 「連結決算体制の構築、開示業務全般」→ その体制を作る過程で、どの事業の数字の見せ方を誰と決め直したか
- 「人事制度の全面改定を主導」→ 改定で誰の報酬が下がり、その決裁を誰と、どう通したか
- 「M&A案件のDDを統括」→ その案件で自分が反対した論点は何で、最終的にどう決着したか
網羅を削って決裁を書くと、経歴書は短くなる。短くなっていい。読み手が探しているのは業務の一覧ではなく、この人を経営の輪の中に入れたときに何が起きるかを推測できる材料である。
当社はPEファンド投資先や事業承継など、非公開の経営ポジションを扱っている。どの席が本当に経営チームの一員を探しているのかを含めて相談したい方は、経営者・CxOとしてのキャリアをお考えの方へから登録できる。
