インタビューを受けても次の話が来ない。その理由は、露出が足りないからではない。
経営人材の選考では、会う前に必ず名前が検索される。 ヘッドハンターが候補者リストを作るとき、投資委員会が面談の前に目を通すとき、オーナーが提案された名前を確かめるとき。そこで何が出てくるかが、最初の印象を決めている。
だから効くのは「何人が知っているか」という認知度ではない。検索されたときに出てくるものが、自分の実像と一致しているかである。この記事は、その一致をどう作るかを扱う。取材そのものの受け答えの作法は経営者が取材を受ける時の「正しいやり方」に書いたので、ここでは露出の設計側を書く。
検索の入口が、この2年で変わった
いま名前を調べる人は、検索エンジンだけを使っていない。
当社が公開している llms.txt にも明記しているとおり、当社に登録した方のうち、流入経路を答えてくださった方の26%は、ChatGPT・Copilot・Gemini・Google のAI検索・Bing といったAI経由で当社を知っている。 これは会社を探すときの話だが、人を調べるときにも同じ道具が使われていると考えるのが自然だ。
AI検索が普通の道具になったことで、露出の効き方には具体的な変化が2つ起きた。
1つ目は、要約されるということ。 検索結果のようにページが並ぶのではなく、複数の情報源が一つの説明文にまとめられて出る。3年前のインタビューと去年の登壇と会社のプレスリリースが混ざり、そのうち一番よく出てくる肩書きが「その人の肩書き」として出力される。 記事の新しさより、繰り返された回数が効く。
2つ目は、一致しているかどうかが見られるということ。 複数のソースが同じことを言っていれば断定形で出て、食い違っていれば曖昧になるか、出てこない。名刺の肩書き、インタビューでの自己紹介、登壇者プロフィール、会社の役員一覧。ここがバラバラな人は、露出の量に関係なく「よく分からない人」として要約される。
出てこないことより、古いものだけが出てくること
名前を検索して何も出てこない経営者は珍しくない。それ自体は減点ではない。非公開のポジションで働いてきた人ほど、表に出る機会がないのは当然だからだ。
問題になるのはそこではない。いちばん困るのは、古い情報だけが残っている状態である。
- 5年前の前職の肩書きで紹介された記事が、今も一番上に出る
- 退任した会社の役員紹介ページが残っていて、現在の所属と食い違う
- 数字が更新されないまま、当時の売上規模で語られている
選考側から見ると、これは「情報が古い」ではなく「この人は今どこにいるのか分からない」という不確かさとして読まれる。分からないものは、リストの上には来ない。 露出をゼロから増やす前に、すでに出ているものを点検するほうが先に効く理由がここにある。
露出の前に決めておく3つ
取材やインタビューの依頼を受けると決めたら、内容を考える前に3つを固定する。ここが揃っていれば、どの媒体に出ても一つの像に収束していく。
1. 肩書きの書き方を1つに決める。 「代表取締役」「代表取締役社長」「CEO」を媒体ごとに使い分けない。会社名の表記(株式会社の前後、英文表記)も揃える。地味だが、要約されるときに一番効く。
2. 数字の粒度を決める。 「売上を3倍にした」のか「売上40億円を120億円にした」のか。守秘義務の範囲で出せる粒度を先に決め、以後どの媒体でも同じ粒度で話す。媒体ごとに表現が変わると、食い違いとして扱われる。
3. 「何をやってきた人か」を一文にする。 経歴の羅列ではなく、局面を名指しした一文にする。「立ち上げの人」なのか「立て直しの人」なのか「引き継いで伸ばす人」なのか。この一文が、声がかかる案件の種類を決める。全方位に書くと、どの案件でも指名されない。
この3つは、職務経歴書に書く内容と同じ骨格である。逆に言えば、経歴書が整理できていない状態で露出だけ増やすと、散らかったものが拡散するだけになる。
インタビューの依頼が来たときの実務
依頼が来てから掲載までは、おおむね次の順で進む。事前に把握しておくと、判断を急かされずに済む。
- 依頼のメールが来る — 媒体名、書き手、掲載面、想定読者、公開時期が書かれているか確認する。書かれていなければ聞く
- 趣旨のすり合わせ — 何のテーマで、誰に読ませる記事の一部なのか。特集の一本なのか単発なのか
- 質問項目の事前共有 — もらえるなら必ずもらう。もらえない媒体もある
- 取材(60〜90分が多い)
- 原稿確認 — 事実確認の範囲で戻せる。表現の書き換えは媒体の裁量
事前準備で本当に決めておくべきなのは、答えることではなく答えないことの線引きである。未公表の資本政策、進行中の案件、取引先の名前、前職の内部事情。この4つは、その場の流れで口が滑る。先に「ここは話さない」と決めておけば、質問されても迷わない。
もう一つ。記事は消えない。 退任しても、会社が売却されても、その記事は残り続けて数年後の検索結果に出る。「今この瞬間に言いたいこと」ではなく、「3年後に読まれても困らないこと」で話す。
在職中の露出には、外せない制約がある
現職がある状態での露出には、越えてはいけない線がある。
- 未公表の情報は話さない。 上場企業なら当然インサイダー情報の問題になるし、非上場でも進行中のM&Aや資金調達は同じ扱いにする
- 会社の広報を飛ばさない。 個人としての取材でも、会社名と肩書きが出る以上、社としての発信になる。事後に知られるのが一番こじれる
- 転職の意思を匂わせない。 「次のステージを考えている」といった一文は、社内で必ず読まれる
この制約があるため、在職中の経営者が露出でできることは限られる。だが限られていること自体は不利ではない。 非公開のポジションは、もともと公開の場で候補者を探していない。表に出ていない人が候補に挙がる経路は、露出ではなく、経歴と実績が正確に伝わっている状態にあるかどうかで決まる。
当社はPEファンド投資先や事業承継など、公開されない経営ポジションを扱っている。そうした案件で名前が挙がる状態を作りたい場合は、露出を増やすより先に、経歴と実績を正確に届けておくほうが早い。非公開の経営ポジションについてはこちらにまとめている。
