CXO転職を「役員クラスの求人を探すこと」と捉えると、たいていうまくいかない。CXOの席は、組織図の空席として生まれるのではなく、その会社がいま抱えている経営課題が、一時的に人の形をとったものとして生まれるからだ。だから狙うべきは職能ではなく局面であり、席の寿命は課題の寿命に連動する。この構造を理解しているかどうかで、選考の通り方も、着任後の評価も変わる。
CXOという一つの市場は存在しない
「CXO市場」という言い方はされるが、実態としてそんな市場はない。CFOの席とCOOの席は、生まれる引き金がまったく違うからだ。
CFOの席は、資本の側の出来事から生まれる。 資金調達、上場申請、買収の実行、借入条件の見直し、株主構成の変更。いずれも期日と到達点が先に決まっていて、そこに向けて人が要る。
COOの席は、事業の再現性が問われる局面で生まれる。 一つの拠点や一つの商材では回っていたやり方が、拡大に伴って壊れはじめたとき。属人的に成立していたオペレーションを、誰がやっても同じ結果が出る形に組み直す必要が出たときだ。
CHROの席は、人員の急増か、制度の疲労から生まれる。 人数が増えて等級や評価の仕組みが実態に合わなくなった、あるいは買収で異なる制度の集団を一つにしなければならなくなった、という局面が典型になる。
CTOやCPOの席は、技術的な意思決定の主体が不在になったときに生まれる。 外注に依存してきた開発を内製に切り替える、蓄積した技術的負債の返済順序を決める、といった判断を担う人がいない状態だ。
引き金が違うということは、同じ会社であっても、CXOの席が同時に空くとは限らないということでもある。そして重要なのは、引き金が違えば、選考で見られるものも違うという点だ。
職能で探すと外れ、局面で探すと当たる
多くの人は自分の職能を軸に探す。財務のキャリアだからCFO、事業をつくってきたからCOO、という具合だ。これは出発点としては自然だが、これだけでは絞り込みが粗すぎる。
同じCFOの席でも、調達の局面の会社と、統合の局面の会社では、求められるものが別物だからだ。前者では投資家との対話と資本構成の設計が中心になり、後者では二つの会計方針を一つにし、異なる文化の経理部門を機能させることが中心になる。どちらもCFOの職務だが、必要な経験は重ならない。
だから、選考で評価されているのは職務経歴書と求人票の一致ではなく、候補者が過去に通過した局面と、いまその会社に来ている局面の一致である。この視点に立つと、よくある悩みのいくつかは解ける。
「業界が違うと不利ではないか」という問いがそうだ。業界より局面のほうが効く。急拡大に伴うオペレーションの再構築という課題は、業種が変わっても構造がよく似ている。逆に、同じ業界でも局面が違えば経験は効きにくい。業界で絞り込むより、局面で絞り込むほうが当たる確率は高い。
席の寿命は、課題の寿命に連動する
ここが、CXO転職を考えるうえで最も見落とされやすい点だ。
課題が人の形をとって席になったのなら、課題が解けたとき、その席の必要性は薄れる。上場を果たしたあとの上場準備責任者、統合をやり切ったあとの統合担当、再構築を終えたあとのオペレーション責任者。いずれも、役割そのものが目的を達成して縮んでいく。
これは失敗ではなく、構造上そうなるという話だ。にもかかわらず、多くの人が「長く在職すること」を成功の指標として持ち込むため、局面の終わりを敗北のように受け取ってしまう。
前提を置き換えたほうがいい。CXOのキャリアは、連続した在職ではなく局面の連なりとして設計するものだ。この前提に立てば、選考で確かめるべきことも変わる。「長く働けますか」ではなく、「この課題は何年で終わる想定ですか」「終わったあと、この席はどうなりますか」を聞くことになる。
後者を聞いて明確な答えが返る会社は、課題を認識したうえで採用している。答えに詰まる会社は、課題の輪郭がまだ描けていないまま「経営を強くしたい」で採用しようとしている可能性が高い。これは着任後の評価の安定性に直結する。
公募に出ないのは、課題が非公開だから
CXOの求人が転職サイトにほとんど出ないのは、待遇や希少性の問題というより、求人を出すこと自体が経営課題の開示になってしまうからだ。「統合の責任者を探しています」は、統合がうまくいっていないという情報になる。「上場準備の責任者を募集」は、時期の推測材料になる。
だから、席は水面下で動く。この構造については、CEOへの転職はどこで決まるのかでも扱っている。CXO全般についても事情は同じで、入口はヘッドハンターや投資家のネットワークに集約されやすい。
いま何を準備すればよいか
局面で狙うという発想に立つと、準備の中身も変わる。職務経歴書に書くべきは、担当した機能の一覧ではなく、どの局面で、何が問題で、どう構造を変え、その結果どうなったかである。
役職名と在籍期間だけが並んだ経歴書は、局面の情報を含んでいない。読み手は、この人がどの課題を通過したのかを判断できない。逆に、局面が具体的に書かれていれば、いま同じ局面にいる会社にとっては読んだ瞬間に候補になる。
もう一つ、自分が次に通過したい局面を決めておくことも効く。経験のある局面を繰り返すのか、まだ通過していない局面に踏み出すのか。どちらにも合理性があるが、決めていないと、来た話の待遇の良し悪しだけで選ぶことになる。それが数年後にどう効くかは、局面の連なりとして見たときにはっきりする。
当社は、PEファンドの投資先や事業承継の局面で生まれる、公開されない経営ポジションを扱っている。いまどのような局面の席が動いているかを知りたい方は、経営者としてのキャリアをお考えの方へをご覧いただきたい。
