人材紹介会社を並べて比較しても、経営ポジションに行き着かないことがある。原因は会社の優劣ではない。人材紹介会社は、どこから、どういう形で報酬を受け取るかによって、扱える案件が先に分かれているからだ。
だから比べるべきは知名度でも求人数でもない。報酬の受け取り方である。ここを見ずに「大手だから」「求人が多いから」で選ぶと、そもそも自分の求める席が在庫にない会社に登録して半年を使うことになる。
法律上はひとつ、ビジネスモデルは三つ
人材紹介会社は、法律上は厚生労働大臣の許可を受けた有料職業紹介事業者であり、そこに区別はない。大手も個人事務所も同じ許可の下で動いている。分かれるのは収益モデルのほうだ。
- 成功報酬型(登録型) — 候補者が入社して初めて手数料が発生する。相場は一般に理論年収の3割前後とされる。求人票を集め、登録者データベースと突き合わせる
- リテーナー型サーチ — 依頼を受けた時点で着手金、候補者提示や最終選考の段階で中間金、決定時に残額、という分割払い。探す作業そのものに対価がつく
- 両者の併用 — 案件の性質で使い分ける
※リテーナーとは: 依頼主が調査・探索の作業に対して前払いで支払う契約形態のこと。医師の初診料や弁護士の顧問料に近い。決まらなくても着手金は返らない代わりに、紹介会社は「その依頼のためだけに時間を使う」ことができる。
この三つ目の違いが、担当者の一日の使い方を決めている。
成功報酬型は「決まる確率」でしか動けない
成功報酬型では、決まらなければ売上はゼロだ。担当者が持てる案件数には限りがあるから、同じ一時間を使うなら、決まる確率と単価を掛けた期待値が高いほうに時間が向かう。これは担当者の熱意や誠実さの問題ではなく、モデルがそう働かせている。
ここで経営ポジションは不利になる。候補になりうる人が数人しかいない。選考が半年に及ぶ。途中で事業計画が変わって要件そのものが動く。オーナーや投資家の一言で振り出しに戻ることもある。同じ半年があれば、要件が言語化されている部長・課長クラスを何人も決められる。
つまり経営ポジションは、成功報酬型のなかでは構造的に後回しになる。相談したのに音沙汰がない、紹介される求人が明らかに一段下だ、という経験は、この経済性の帰結であることが多い。
手数料を払うのは、あなたではない
もうひとつ、モデルの違い以前に共通している前提がある。紹介手数料を払うのは採用する企業であり、候補者ではない。候補者は顧客ではなく、紹介会社にとっては商品に近い位置にいる。これは批判ではなく、有料職業紹介という制度の建て付けそのものだ(求職者からの手数料徴収は、原則として認められていない)。
だから利害が一致する場面と、一致しない場面が生じる。年収が上がればあなたも紹介会社も得をする。ここは一致する。一方で、「この話は受けないほうがいい」「もう一年、今の会社で数字を作ってから動くべきだ」という助言は、紹介会社の売上をゼロにする。ここは一致しない。
見るべきなのは、一致しない場面で何を言うかである。初回の面談で一度も「今は動くべきでない」の可能性に触れない相手は、少なくともその判断を仕事の範囲に入れていない。経営ポジションは在任期間が長く、次の一手を選び直すまでの時間も長い。合わない席に座ったときの取り返しのつかなさが、他の職位とは違う。
だから経営の席は「求人票」の形をとらない
もうひとつ、発注側の事情がある。経営ポジションの多くは現職がいる状態で動きはじめる。後任のめどが立つ前に外へ出せば、社内が揺れる。取引先や金融機関にも伝わる。だから求人票という公開できる文書になりにくい。
公開できない依頼は、求人票を集めて突き合わせるモデルには載せられない。載せずに探すには、依頼を受けてから候補者を洗い出す時間が要る。その時間に対価を払う仕組みがリテーナーであり、エグゼクティブサーチと呼ばれる領域が成立している理由もここにある。
同じことは、案件在庫が発注元の種類で決まるという話ともつながる。詳しくは役員の転職エージェントは「どこがいいか」では選べないで書いた。
当社もPEファンド投資先や事業承継といった、公開されない経営ポジションを扱っている。求人票にならない依頼が世の中に一定量あるという前提で組まれた仕組みだ、と理解してもらえればいい。
初回面談の30分で、在庫の質は見分けられる
登録先を決める前に、次の二つを見るだけでかなり分かる。
何を聞かれるか。 希望年収・希望業種・いつから動けるか、で面談が終わるなら、それはマッチングのための属性収集である。対して、何を任され、どこまでを自分で決め、誰に対して結果の責任を負っていたかを掘られるなら、発注元に対してあなたを説明する材料を集めている。後者は、説明する相手が実在するときにしか起きない。
何を聞き返せるか。 「求人はどれくらいありますか」と聞いても、母数の話が返ってくるだけだ。代わりに**「いま動いている経営ポジションは、どういう立場の方からの依頼ですか」**と聞く。オーナー個人からか、投資家からか、買い手企業の本社からか。答えられる粒度の差が、そのまま在庫の差になる。
複数登録で起きる、経営層特有の事故
一般職の転職では、複数の紹介会社に登録しておくのが定石とされる。経営ポジションでは、ここに固有のリスクがある。母集団が小さいため、同じ発注元に、複数の紹介会社からあなたの経歴書が届くことが起こる。
受け取った側から見れば、同じ人が複数のルートで持ち込まれている状態になる。どの紹介会社が窓口なのかで話がこじれ、いちばん確度の高かった一件が止まることもある。防ぐ方法は単純で、どの会社にどの案件を預けたかを自分で記録し、推薦の前に必ず「どこの会社に出すのか」を社名で確認することだ。断りにくい話ではない。まともなサーチ会社であれば、社名を伏せたまま推薦することのほうが例外である。
選ぶ基準を一つだけ持つなら
求人数でも、知名度でも、担当者の感じの良さでもない。その会社が、誰から、どの段階で報酬を受け取っているかである。それが分かれば、扱える案件の種類はほぼ決まる。
経営ポジションを本気で考えるなら、公開されない依頼を扱う側と接点を持っておくことに意味がある。動く予定が今日なくてもいい。声がかかる位置にいるかどうかが、選択肢の数を決める。経営ポジションを探している方へも参考にしてほしい。
