社内で「次期社長候補」と言われていても、それが人事上の事実なのか、引き止めるための言葉なのかは、言われ方では分かりません。どちらも同じ温度で伝えられます。
見分ける材料は3つです。指名の手続きに自分の名前が乗っているか。担当の範囲が「縦」から「横」に変わったか。社長が持っている社外との接点を渡されたか。 この3つは会社の側に手間と費用が発生するため、本気でなければ起きません。
逆に、3つのどれも起きていないのに期待の言葉だけが続く状態は、珍しくありません。この記事では、その見分け方と、社内で事実を確かめる聞き方を書きます。
「候補」という言葉には2種類ある
会社が本当に後継者を育てるときは、必ず手続きが動きます。指名委員会や取締役会が候補者のリストを持ち、育成の進み方が議題になり、外部機関の評価が入ります。関わる人が増え、記録が残ります。
※指名委員会とは: 社長や役員の選任案を検討する、取締役会の下に置かれた会議体です。上場企業では設置が一般的で、非上場でもオーナーと社外取締役が同様の場を持っている会社があります。
一方で「君には期待している」という言葉は、優秀な人を引き止める方法としては最も費用がかかりません。 役職も報酬も動かさずに、本人の納得を数年延ばすことができます。
ここで押さえておきたいのは、これが騙しているわけではないということです。言った側も、そのときは本当にそう思っています。ただ、思っていることと、手続きが動いていることは別です。本人の側が区別しない限り、区別されないまま時間が過ぎます。
事実1:指名の手続きに名前が乗っているか
「自分はサクセッションの対象に入っていますか」と直接聞いて、まっすぐ答えが返る会社は多くありません。代わりに、手続きが動いているときにしか起きない出来事を見ます。
- 後継者育成を目的とした研修や、外部機関によるアセスメント(経営者としての適性評価)を受けた
- 自分の担当ではない議題で、取締役会や経営会議に呼ばれた
- 社長と1対1の定例が設定された。しかも議題が自分の事業の報告ではない
- 社外取締役と話す機会が、会社の段取りで作られた
どれも会社にとって費用と時間がかかります。無料で起きることではないので、起きていれば手続きが動いています。 逆に、評価は高いのにこの種の出来事が何年も起きていないなら、評価されているのは現在の仕事の成果までだと考えたほうが実務的です。
指名の場で実際に何が議論されているかは大企業の役員向け:指名委員会の「聖域」と役員人事で扱っています。
事実2:担当の範囲が「縦」から「横」に変わったか
事業部長が、もうひとつ事業部を持つ。売上規模が倍になる。これは縦の拡大です。評価されている証拠ですが、社長候補であることの証拠にはなりません。同じ種類の仕事が増えただけだからです。
社長候補に渡されるのは横です。管理部門、海外、M&A、人事、情報システム——自分が出身でない領域が1つ渡されます。
理由は単純です。社長の仕事の大半は、自分が分からない領域について決めることだからです。 自分で検算できない数字を、人の説明だけで判断する。この耐性があるかどうかは、得意な領域の実績では測れません。だから会社は、分からない領域を1つ渡して、そこでの判断の仕方を見ます。
渡されたときは、たいてい割の悪い役回りです。赤字の子会社、揉めている部門、前任が辞めた領域。ここで「自分の実績が汚れる」と考えて断ると、候補の列から静かに外れます。 会社の側は、断られたことを責めません。次の人に渡すだけです。
優秀な役員ほどトップ就任後につまずく構造については優秀なNo.2で終わるか、CEOを託されるかに書きました。
事実3:社長の社外との接点を渡されたか
社長交代は、社内の役職の移動である以上に、社外の信用の引き継ぎです。
銀行の支店長、監査法人の担当、主幹事証券、大口の取引先、主要株主。社長が持っているこうした関係のうち、一部が自分に移ってきているかを見ます。同席するだけでは足りません。先方からの連絡が自分に直接来るようになっているかどうかが境目です。
ここが動いていない場合、交代の準備はまだ始まっていません。社外の関係は引き継ぎに1〜2年かかるため、交代の1年前になって初めて渡されることはありません。 時期の目安として使えます。
3つが揃わないまま時間が過ぎると
会社は「辞めてほしくない」と「社長にする」を同時に伝えられます。本人が事実で確かめない限り、待つ時間だけが過ぎます。
ここで知っておくべきなのは、待っている間の自分の市場価値が、一定の時期から下がり始めることです。50代前半までは「次の会社で社長を任せる人」として見られますが、それ以降になると、経験を評価されても任せる席のほうが「顧問」や「社外取締役」に寄っていきます。年齢で線が引かれているわけではなく、任期を5年以上見込める人から順に声がかかるためです。
これは焦る理由ではありません。期限を自分で決める理由です。3つの事実を見て、どれも動いていないなら、あと何年待つかを自分で決める。それだけで、待つことが受け身ではなくなります。
社内でのサクセッションがなぜ機能しにくいのか、会社の側の事情はCEOのサクセッションプランはなぜ失敗するのかにまとめています。
社内で事実を聞き出す3つの質問
「自分は候補ですか」と聞くと、抽象的な答えが返ります。聞くのは予定です。
- 「次の2年で、私に任せる予定の領域はどこですか」 — 横の領域の名前が出るか、「いまの事業をしっかり」で終わるか
- 「社長が持っている社外の関係で、私が引き継ぐものはありますか」 — 具体名が出るかどうか
- 「後継者の検討は、どの会議で扱われていますか」 — 会議体の名前が出るか、「まだそういう段階ではない」と返るか
3つとも、答えが出なければ拒否ではなく、手続きがまだ始まっていないという事実です。感情の問題ではないので、何年待つかを決める材料にそのまま使えます。
外を見ることは、辞める決断とは別
社内の昇格を待ちながら、外の席の相場を知っておくことは矛盾しません。むしろ逆です。外の選択肢を持っている人のほうが、社内で予定を確かめる会話ができます。 代わりがない状態で聞くと、聞くこと自体が賭けになります。
中途で社長の席に就く経路は2つしかなく、それぞれ求められるものが違います。整理は中途でCEOになる経路は2つしかないにあります。
まとめ
- 「次期社長候補」という言葉は、人事上の事実と引き止めの言葉のどちらでも同じ温度で伝えられる
- 見分けるのは3つの事実。指名の手続きに名前が乗っているか/担当が縦でなく横に広がったか/社長の社外関係が移ってきたか
- 割の悪い横の領域を断ると、候補の列から静かに外れる
- 社外関係の引き継ぎには1〜2年かかるため、動いていなければ交代の準備は始まっていない
- 聞くのは「候補かどうか」ではなく「次の2年の予定」。答えが出なければ、何年待つかを自分で決める
当社は、表に出ない経営者のポジションを扱っています。相場を知っておきたい段階での登録も受けています(経営者としてのキャリアを考える方へ)。
