ヘッドハンティングの費用を、声をかけられた側が払うことはありません。 払うのは採用する会社です。金額は決まった人の理論年収に料率を掛けて算出され、目安は30〜40%。年収2,000万円の席なら600万〜800万円が会社から支払われます。

ここまでが、検索して知りたかったことのはずです。ただ、この記事で本当にお伝えしたいのはその先です。経営人材にとって重要なのは費用の金額ではなく、その費用の払い方です。着手金を払う契約なのか、決まったときだけ払う契約なのかで、あなたのところに届く席の種類が変わります。

誰が、何に対して、いくら払うのか

費用の構造は3つの要素でできています。

1. 払う人は採用する会社

人材紹介では、紹介会社に手数料を払うのは求人側です。これは慣習ではなく法律の建て付けです。職業安定法は、求職者から手数料を取ることを原則として禁じています。

ここに一つ、経営人材だけが知っておくべき例外があります。この原則禁止には例外が設けられており、経営管理者はその例外に含まれています(科学技術者、熟練技能者なども同様で、いずれも年収700万円を超えることなどが条件です)。つまり法律上は、年収700万円超の経営管理者から手数料を取ることが、上限付きで許されている。

※なぜこの例外があるのか: 原則禁止の趣旨は、立場の弱い求職者が手数料を負担して不利益を受けるのを防ぐことです。経営管理者のような層は交渉力があり、自ら費用を払って機会を買う判断ができるとみなされているため、例外が置かれています。

とはいえ、実務でこの例外が使われることはほとんどありません。 経営ポジションのサーチで費用を負担するのは、まず会社側です。もし候補者側に費用を求める話が出てきたら、それは例外の話ではなく、ビジネスモデルそのものを確かめるべき場面だと考えてください。

2. 計算根拠は「理論年収」

料率を掛ける対象は、決まった人の理論年収です。

※理論年収とは: 入社後1年間に支払われると見込まれる金額の総額です。月給の12か月分に、賞与の見込み、固定的な手当を加えて算出します。「入社時の提示年収」とおおむね同じですが、賞与の扱いで差が出ることがあります。

3. 料率は30〜40%が目安

経営人材の領域では30〜40%のレンジが使われます。外資系のサーチファームはこの上限に近い水準を提示することが多く、下の方は比較的一般的な人材紹介に近い水準です。

ここで気づいていただきたいことがあります。この計算式では、会社が払う費用はあなたの年収に連動して増えます。 年収が300万円上がれば、会社の負担も100万円前後増える。だから席を提示する側は、提示年収を上げるときにこの上乗せも含めて考えています。報酬交渉の場で相手が見ているのは、あなたの年収だけではありません。

払い方が2つある。ここが本題です

同じ30〜40%でも、いつ払うかで契約は2つに分かれます。この違いが、あなたに届く席を決めています。

リテインド型(着手金のある契約)

会社が依頼した時点で着手金を払い、選考の節目ごとに、あるいは決定時に残りを払う形です。決まらなくても着手金は戻りません。

会社がこの契約を選ぶのは、その席を埋めることが事業計画の前提になっているときです。買収した会社の社長が決まらなければ統合が始まらない、上場準備を担うCFOが決まらなければスケジュールが動かない。そういう席です。

結果として、この契約で動く席には共通点があります。

  • 公開されない。 誰を探しているかが外に漏れると、株価・取引先・社内に影響が出る席だからです
  • 要件が具体的である。 会社は着手金を払った上で探しているので、「いい人がいれば」では依頼しません
  • 候補者の数が少ない。 名簿から集めるのではなく、組織図から逆算して探すため、同時に声がかかっているのは数名です

完全成功報酬型

決まったときにだけ払う形です。会社から見れば、依頼した時点での現金の支出がありません。

これは会社にとって都合がよく、だから広く使われています。 ただし依頼する側のコストがゼロなので、同じ席が複数の会社に同時に依頼されます。そして紹介会社の側から見れば、決まらなければ一円も入らない仕事です。

ここから、構造的な結果が出ます。成功報酬型で動く案件では、紹介会社は「決まる確率」で稼働を配分せざるを得ません。 決まりやすい席を優先し、決まりやすい候補者に多くの時間を使う。これは誰かの怠慢ではなく、収益構造がそう要求しているということです。

2つの違いが、あなたに何をもたらすか

この2つの構造から、経営人材が知っておくべき結論が出ます。

手数料の原資が用意されていない席は、そもそもエージェント経由で出てきません。

経営ポジションの手数料は、年収2,000万円の席なら600万〜800万円です。この金額を現金で払える状態にない会社の席は、紹介会社に回らない。創業間もない会社のCxO、オーナーが自分の頭の中だけで考えている後継者の席、そういうものは費用の構造上、紹介の経路に乗っていないのです。

ですから、エージェントに登録しても案件が出てこないとき、原因はあなたの経歴ではないことがあります。探している側に、手数料を払う段階が来ていないだけという場合があるのです。この構造はヘッドハンティング会社に管理職として登録しても動かない理由でも別の角度から書いています。

費用を払っている側は、何を買っているのか

600万〜800万円を払う会社が買っているのは、候補者の紹介ではありません。その席が埋まらないことで失われる時間です。

買収した会社の経営体制が3か月遅れれば、統合の計画はそのぶん後ろにずれます。CFOが決まらなければ資本政策が動きません。会社が払っているのは、この遅れを買い戻す費用です。

この見方に立つと、経営ポジションの選考が重い理由が分かります。会社は人の採用コストではなく、計画の実行確度を買っている。だから面接で問われるのは経歴の確認ではなく、「この計画をあなたが実行できるか」になります。選考が長引くのも、慎重さの問題ではなく、確度を確かめる作業に時間がかかるからです。

私たちはPEファンドの投資先や事業承継のように、公開されない経営ポジションを扱っています。そこで繰り返し見るのは、費用の重さと選考の重さが比例している、という単純な関係です。軽い費用で動く席は、軽い選考で決まり、就任後の期待も軽い。自分に来ている話の重さを測る物差しとして、費用の払い方は意外に正確です。

候補者が確かめる3つ

最初の面談で、次の3つを聞いてください。費用そのものを尋ねる必要はありません。費用の払い方が分かる質問をします。

1. 「この席は、いつから探されているポジションですか」

着手金を払って探している席は、依頼の時期と理由がはっきりしています。答えが曖昧なら、成功報酬型で回ってきた案件の可能性があります。

2. 「同じ席を、他の紹介会社も扱っていますか」

リテインド型は一社に絞るのが通例です。複数社が扱っていると分かれば、会社の本気度ではなく、契約の型が分かります。どちらが悪いということではなく、あなたが置かれている競争の形が分かるという意味です。

3. 「この席が埋まらないと、会社の計画で何が止まりますか」

これが最も効きます。答えられるなら、相手は要件定義まで会社と話し込んでいます。答えられないなら、求人票を渡されただけの状態です。

この3つは、エージェントを試す質問ではありません。この話に乗るべきかを、あなたが判断するための質問です。

まとめ

  • 費用を払うのは採用する会社。候補者の負担はない。法律上は経営管理者からの徴収に例外があるが、実務ではまず使われない
  • 金額は理論年収の30〜40%が目安。年収2,000万円なら600万〜800万円
  • 着手金のあるリテインド型は、埋まらないと計画が止まる席に使われる。公開されず、要件が具体的で、候補者の数が少ない
  • 完全成功報酬型は依頼側のコストがゼロなので、同じ席が複数社に流れ、稼働は決まりやすさで配分される
  • 手数料の原資がない席は、紹介の経路に乗らない。 案件が出てこない理由は、経歴ではなく段階であることがある
  • 確かめるのは費用の金額ではなく払い方。「いつから探しているか」「他社も扱っているか」「埋まらないと何が止まるか」の3つで分かる

費用の話は、突き詰めるとその席がどれだけ本気で探されているかの話です。金額を知っても交渉には使えませんが、払い方を知れば、来た話の重さは測れます。