COO(最高執行責任者)の選考で志望動機を問われたとき、答えるべきは動機ではない。**「この会社の、この局面で、自分が何を引き受けるか」**である。

「経営に挑戦したい」「理念に共感した」「事業の成長に貢献したい」——部長級の採用では成立するこの形を、そのまま持ち込むと落ちる。理由は熱意の不足でも謙虚さの過剰でもない。COOの席は「採用」ではなく「任命」で埋まるからである。任命する側が聞きたいのは、あなたが来たい理由ではなく、あなたが何を引き取ってくれるのかである。

以下、その違いがどこから生まれるのか、何をどの順で語るのかを書く。

経営層の選考で、志望動機の意味が入れ替わる理由

部長級までの採用では、会社が席を用意し、そこに合う人を選ぶ。志望動機は「その席に就きたい理由」として機能する。

COOはこの前提が崩れる。取締役や執行役員として迎える場合、関係は雇用ではなく委任になる。会社に雇われるのではなく、会社の意思決定の一部を委ねられる立場に変わる。

※委任とは: 会社と役員の関係は、従業員の雇用契約ではなく、株主総会での選任に基づく委任契約になる。労働時間の管理や解雇の制限といった従業員向けの保護が外れ、代わりに経営判断の権限と責任を負う。詳しくはCEO・取締役は「正社員」ではないに書いた。

委ねる側は、CEOか株主である。PEファンドの投資担当者か、オーナー経営者か、創業社長本人。いずれにせよ、その人はすでに具体的な問題を抱えている。 営業が伸びない、現場が回らない、幹部が育たない、自分の時間が足りない——問題はもう決まっている。

その人が志望動機の時間に測っているのは、次の2つである。

  1. あなたがその問題を、外から見てどこまで言い当てているか(見立ての精度)
  2. あなたが引き受ける範囲を、自分の言葉で限れるか(自覚の有無)

熱意は測っていない。熱意のある候補者は他にもいる。

COOの席は3通りある。読み違えると、志望動機は噛み合わない

ここがCOO特有の難しさである。COOという肩書きは同じでも、誰のNo.2なのかで仕事が別物になる。 席は大きく3つに分かれ、それぞれ志望動機として語るべき内容がほとんど重ならない。

1. 創業社長の補完として置かれる席

CEOが事業を作り、COOが回す形である。問われているのは「自分がこの社長の何を代替するか」。

難しいのは、CEOの弱点を名指しせずに語らなければならない点である。「社長は組織作りが苦手だと見えるので、そこを私が」と言えば、面接の相手はそのCEO本人である。語り方は、相手の欠落ではなく自分が引き受ける機能として置く。「事業の立ち上げが続く局面では、立ち上げる人と、立ち上がったものを標準化する人が分かれているほうが速い。私は後者を引き受ける」——同じ内容が、批評ではなく分担の提案になる。

2. PEファンド投資先の執行責任として置かれる席

PEファンド(投資家から資金を集めて企業の株式を取得し、価値を高めてから売却する投資会社)の投資先では、期限がある。 ファンドは保有期間のうちに企業価値を上げて次の買い手に渡す前提で入っている。

※保有期間とは: PEファンドが企業を保有する期間。一般に数年単位で、その間に収益性や組織を立て直し、売却または上場によって投資を回収する。入る時期が保有期間のどこなのかで、経営陣に求められる仕事が変わる。

だから投資担当者は時間で考えている。志望動機として語るべきは「保有期間のどの部分を自分が担うか」である。投資直後の立て直しに入るのか、磨き込みの局面に入るのか、売却準備に入るのか。ここを特定せずに「企業価値向上に貢献したい」と言うと、時間の概念がない人として扱われる。

3. 事業承継で、後継を含んで置かれる席

オーナー経営者が後継を探している場合、COOは入口である。オーナーが見ているのは実行力ではなく、この会社を残せる人かどうかである。

問われるのは、社員と取引先の前でどう振る舞うかである。長く勤めた社員がいて、代々の取引先がある。改革の速度を語れば語るほど、オーナーは不安になる。ここで語るべきは、何を変えないかを先に決められる人であることだ。

志望動機が通らない最大の原因は、熱意の不足ではなく、どの型の席かを読み違えていることである。 3つは、求める人物像がほぼ逆を向くことさえある。

落ちる志望動機の4つの型

実際に見送りになる志望動機には、共通する形がある。

1. 主語が自分の成長になっている。 「経営を学びたい」「より大きな裁量で挑戦したい」。本心としては正しいが、相手の問題を解く話になっていない。学ぶ場として選ばれた会社の側に、応じる理由がない。

2. 課題仮説が公開情報の言い換えで止まっている。 中期経営計画やIR資料の文言を整えて返す形。読んできたことは伝わるが、それは誰でもできる。相手が聞きたいのは、資料に書かれていないことをどう推測したかである。「公開されている数字から見ると、売上は伸びているのに人員が同じ比率で増えている。ここが詰まりだと見える」——外れていてもよい。仮説の立て方が見える。

3. 引き受ける範囲を言わない。 「何でもやります」「必要なことは全部」。意欲の表明に見えて、優先順位をつけられない人のサインとして読まれる。 COOは全部をやる席ではなく、CEOと分けて持つ席である。分け方の案がないなら、分けられない人だと判断される。

4. 前職の成功談が動機になっている。 前の会社で何を成し遂げたかを志望動機の中心に置く形。経験は資産だが、前職の文脈に最適化された成功は、そのままでは移らない。語るなら、再現できる条件つきで語る。どんな前提が揃っていたから効いたのか、ここにその前提はあるのか。他人の経験談を自分に当てるときの難しさはCOOの経験談は、そのままでは自分に使えないに書いた。

通る志望動機は、4段で組む

語る順序は決まっている。3〜4分で話せる形にしておく。

第1段:読み。 この会社のいまの局面はこう見える、という一文。根拠を1つだけ添える。公開情報でよいが、数字と数字の間の関係を読む。

第2段:引き受け。 その局面で、自分が引き受けるのはここだと範囲を限る。限ることが価値である。 広く言えば言うほど薄くなる。

第3段:根拠。 引き受けられると言える理由。過去の経験を、成果ではなく条件で語る。「同じ状態の組織で、同じ順序で手をつけて動いた」まで言えると強い。

第4段:最初の90日。 入って最初に何を確かめ、何を1つ通すか。ここまで言える候補者は多くない。言えると、入社後を一緒に考えている相手として扱われ方が変わる。

書面で求められる場合も順序は同じである。経歴書に長い志望動機を書く必要はない。経歴書は実績を示すもので、動機は対話で立ち上がる。ただしエージェント経由の応募では、推薦の際に「なぜこの会社か」が1〜2行で添えられる。そこに置く文は、第1段と第2段を縮めたものになる。

志望動機を語る場は、こちらが確かめる場でもある

選考は一方向ではない。COOの席は構造で決まる部分が大きく、構造が悪い席は、入ってからの努力では埋まらない。志望動機を語る場で、こちらからも確かめておく。

  • 誰が自分を評価するのか。 CEOか、株主か、両方か。両方の場合、評価が食い違ったときにどちらが通るのか
  • CEOとの権限の線をどこに引くか。 そしてそれを文書にできるか。口頭の合意は、半年後に残らない
  • 前任がいた席なら、なぜ空いたのか。 同じ構造が残っていれば、同じことが起きる

COOが辞める理由が人ではなく構造から生まれることはCOOの転職理由は「人」ではなく「構造」から生まれるに書いた。確かめるべきことは、辞める理由の裏返しである。

志望動機を磨く作業は、結局のところその席が自分にとって引き受けられる席かを、自分で確かめる作業でもある。語れないなら、まだ読めていない。読めていない席に就くと、着任後に同じ問いが返ってくる。

COOになれるかどうかの条件そのものはCOOになれる人、なれない人で扱っている。当社はPEファンド投資先や事業承継など、公開されない経営ポジションを扱っている。どの型の席が自分に合うのかを整理したい段階であれば、経営者のキャリアから相談いただける。