COO(最高執行責任者)の経験談をいくら集めても、自分がこれから受ける席の判断材料にはなりにくい。理由は書き手の質ではなく、COOという役職には共通の職務内容が存在しないからだ。
だから経験談は「何をしたか」を読むものではない。その人が何を持たされていたかという条件を復元してから読む。条件が違えば、同じ行動が真逆の結果になる。
本稿では、経験談から復元すべき4つの条件と、席を受ける前に確かめる5つの質問を書く。
なぜCOOの経験談は転用できないのか
CEOや取締役と違い、COOは会社法上の機関ではない。登記もされないし、法律で定義された権限も責任もない。社内の呼称である。
ここが決定的で、COOの職務はCEOが手放したものの形で決まる。CEOが営業を手放せばCOOは営業の長になり、CEOが管理を手放せばCOOは管理の長になる。CEOが「現場は見ない」と決めた会社では全社執行の長になり、CEOが実務を握り続ける会社では調整役になる。
つまりCOOは、組織図の上では同じ位置にありながら、中身が会社ごとに丸ごと入れ替わる残余的なポジションである。「COOを3年やった」という経歴が、職務内容について何も教えてくれないのはこのためだ。
経験談が面白く読めるのに自分の判断に効かないのは、語り手が自分の条件を自明視しているからでもある。権限があったから動かせた話を、動かし方の話として語ってしまう。読む側が条件を補わないと、再現できない手順書になる。
経験談から復元すべき4つの条件
1. 権限の出どころ
その人の権限は、CEO個人の信任から来ていたのか、取締役会の決議から来ていたのか、株主の意向から来ていたのか。
CEO個人の信任だけで動いていたCOOの話は、CEOとの関係が壊れた瞬間にすべて無効になる。取締役会マターとして職務が決議されているCOOの話とは、前提がまったく違う。経験談で「社長を説得した」が頻出するなら、前者である可能性が高い。
2. CEOが手放していなかった領域
人事、資金、主要顧客。この3つのうち、どれがCEOの手元に残っていたか。
とくに人事が残っていた場合、COOは自分の部下を自分で選べない。実行の責任だけを負って、実行する人を選ぶ権限がない状態になる。この条件下で成立した打ち手は、人事権のあるCOOには冗長で、人事権のないCOOには再現できる。
3. 数字の負い方
P/L(損益)そのものに責任を負っていたのか、プロセスKPIに負っていたのか。
売上・利益の責任者だったCOOと、全社の実行品質の責任者だったCOOでは、意思決定の時間軸が違う。前者は四半期で判断し、後者は仕組みで判断する。経験談の中の「やめた」「切った」という話は、どちらの立場から出た判断かで妥当性が変わる。
4. 辞め方
もっとも情報量が多いのに、経験談でもっとも省略されるのがここだ。
任期満了で退いたのか、CEOが交代したときに一緒に退いたのか、昇格したのか、理由を告げられないまま外れたのか。COOの退任理由は、その席がもともと何のために作られたかを逆照射する。CEO交代と同時に退いているなら、その席はCEO個人の補完として設計されていた、と読める。
経験談には出てこない、もっとも重要な情報
ここまでは読み方の話だ。しかし、どれだけ丁寧に読んでも経験談から取り出せない情報がひとつある。
その会社が、なぜCOOを置くと決めたのかである。
席が生まれる理由は、おおむね次の4つに分かれる。
- CEOの時間が足りない:事業が伸びていて、CEOが外(資金調達・提携・採用)に出る必要がある。COOは内側の運営を丸ごと引き受ける
- 資本イベントが控えている:上場準備、ファンドの投資実行、事業承継。管理体制や内部統制を「人がいる状態」にする必要がある
- 後継者を試す:次の社長候補を、社長の手前の席で見る
- CEOの苦手領域を埋める:製造出身のCEOに営業のCOO、技術のCEOに管理のCOO
この4つは、要求される能力も、想定任期も、成功の定義も違う。後継者を試す目的で作られた席に、時間不足を埋める人材像で入ると、2年目に評価軸が合わなくなる。逆に、苦手領域の補完として作られた席で「全社の経営を担う」つもりでいると、越権と受け取られる。
そして厄介なことに、語り手自身が、自分の席がどの理由で生まれたかを知らないまま務めていることがある。採用時に説明されないからだ。だから経験談からは出てこない。
席を受ける前に確かめる5つの質問
経験談で埋まらない部分は、自分で聞くしかない。面接の終盤、あるいは条件提示の前後で、次の5つを確かめる。
- 「前任のCOOはいましたか。いた場合、なぜ退任されたのですか」 前任がいないなら、その会社はCOOの運用経験がない。いるなら、退任理由が席の設計を教えてくれる
- 「COOを置くという判断は、どこでなされましたか。取締役会で議論されましたか」 社長の一存か、機関決定か。1で述べた権限の出どころを、就任前に確認できる唯一の問いである
- 「社長がCOOに渡さないと決めている領域は、どこですか」 「全部任せます」と返ってきたら、その答え自体が危険信号だ。手放さない領域を言語化できていないCEOは、着任後に無自覚に取り返しにくる
- 「COOの評価は、誰が、何を見て行いますか」 評価者がCEO一人なのか、取締役会なのか。評価指標がP/Lなのか、プロセスなのか。ここが曖昧なまま入ると、1年後に「期待と違った」が双方から出る
- 「契約の形は、雇用契約ですか、委任契約ですか。任期はありますか」 取締役を兼ねるCOOは委任契約(会社と役員の間で結ぶ、労働法上の保護が及ばない契約)になることが多い。解任の要件と報酬の継続条件が雇用契約とは別物になるため、受ける前に確認しておく
※ 答えが曖昧なときの読み方 5つのうち2つ以上に明確な答えが返ってこない場合、席の設計そのものがまだ終わっていない可能性が高い。これは必ずしも避けるべき案件という意味ではなく、入社後に自分で設計する余地があるとも読める。ただしその前提で報酬と任期を交渉する必要がある。
経験談を一次情報として採りにいく
公開されている経験談の限界は、書き手が条件を省くことにある。ならば、会って聞けるCOO経験者には、条件のほうを聞けばいい。
「どんな仕事でしたか」ではなく、「誰から権限をもらっていましたか」「社長が手放していなかったのは何ですか」「どう辞めましたか」と聞く。この3つだけで、その人の経験談は転用可能な情報に変わる。
当社はPEファンド投資先や事業承継など、公開されない経営ポジションを扱っている。そこで繰り返し見えるのは、同じ「COO」という名前の席が、二つとして同じ中身になっていないという事実である。求人票の役職名は、職務内容をほとんど説明していない。経験談を読む前に、まず目の前の席の条件を確かめるべき理由はここにある。
COOという席の構造そのものについては【COOとは】CEOの「妄想」を「現実」に変える執行の要とCOOになれる人、なれない人で、社長への昇格を見据える場合の論点はCOOから社長になるには何が必要かで扱っている。
条件を確かめたうえで席を選びたい方は、経営ポジションの登録から状況をお知らせいただきたい。
