COOと執行役員の違いは、3つに分けると整理できる。法律上の立場・見ている損益の単位・資源配分の権限である。
先に結論を書く。法律上は、執行役員は会社法の役員ではなく従業員であることが多く、COOは法律に定義のない呼称にすぎない。つまり法律の観点では、どちらも「取締役ではない」という点で同じ側にいる。差が出るのは残りの2つ、見ている数字の単位と、人と金を動かせる範囲のほうである。
経営者としての次のキャリアを考えている人にとって重要なのは後者だ。肩書を執行役員からCOOに変えても、見ている数字と権限が同じなら、市場からの評価はほとんど変わらない。
1. 法律上の立場
まず、よく混同される3つを分けておく。
※ 取締役・執行役・執行役員の違い 取締役は会社法上の役員で、株主総会で選任され、取締役会の一員として経営の意思決定と監督を担う。 執行役は、指名委員会等設置会社にだけ置かれる会社法上の地位で、取締役会から業務執行を委任される。 執行役員は会社法に規定がない。多くの会社では雇用契約のままの従業員で、社内の役職名として置かれている。
「執行役」と「執行役員」は一文字違いだが、法的な位置づけはまったく別物である。経歴書に「執行役員」と書いた人が、面接で「取締役会の構成メンバーでしたか」と聞かれて答えに詰まる場面は珍しくない。
COOはこのどれにも当たらない。Chief Operating Officer は役職の呼称であって、日本の会社法に対応する地位はない。だからCOOという肩書だけでは、その人が取締役なのか従業員なのかすら分からない。取締役を兼ねるCOOもいれば、執行役員の中の筆頭としてのCOOもいる。
選考の場でこの区別が効くのは、「意思決定の最終ラインにいたか」を確かめるときである。取締役会に議案を上げる側だったのか、議案を決める側だったのか。この一点で、同じ肩書でも評価は大きく変わる。
2. 見ている損益の単位
実務で最も大きい差はここにある。
執行役員は通常、担当領域を持つ。営業担当、生産担当、管理担当といった具合に、特定の機能か事業の責任を負う。見ている数字は部門のP/L、あるいは部門の予算である。
COOが見るのは全社のP/Lで、多くの場合そこにB/Sとキャッシュが加わる。この差が何を生むかというと、判断の性質が変わる。
部門の数字を最大化する判断と、全社の数字を最適化する判断は、しばしば逆を向く。営業が受注を増やせば生産が詰まる。在庫を厚くすれば欠品は減るが運転資金が重くなる。部門担当の立場では、自部門を最大化することが正しい仕事である。COOの立場では、どの部門に我慢させるかを決めることが仕事になる。
この転換は、肩書が変わった日に自動的には起きない。執行役員として優秀だった人が全社を預かったとき最初につまずくのは、たいていここである。自分が長くいた部門に無意識に有利な配分をしてしまう、あるいは逆に、公平であろうとして出身部門に過度に厳しくなる。どちらも全社最適ではない。
3. 資源配分の権限
3つ目は、人と金を部門をまたいで動かせるかどうかである。
執行役員の権限は、担当領域の中で完結していることが多い。自部門の採用、自部門の予算執行、自部門の人事異動。部門をまたぐ配置転換や予算の付け替えは、社長や取締役会の決裁事項になっている。
COOはこの線を越える。どの事業から人を抜き、どの事業に入れるか。来期の投資をどこに寄せるか。この判断を自分の責任で下せるかどうかが、COOとして機能しているかの実質的な基準になる。
逆に言えば、COOという肩書を持ちながらこの権限がない会社は少なくない。その場合、実態は「執行役員の筆頭」であって、市場から見たときの評価は執行役員と変わらない。転職を考える段階で自社の立場を確かめたいなら、肩書ではなく「部門をまたいで人と金を動かした意思決定を、自分の名前で何件やったか」を数えるのが早い。
執行役員からCOOへ進むときに埋めるもの
ここまでを踏まえると、埋めるべきものは3つに絞られる。
(1) 全社の数字を自分の言葉で説明できること。 自部門ではなく全社のP/LとB/Sを見て、どこが詰まっているかを指摘できるか。これは担当領域の外にいても、決算資料と予算を読み込めば今日から始められる。
(2) 部門間の調整を、自分の責任で決めた経験。 「調整した」ではなく「どちらかに我慢させる決定をした」経験が要る。小さい案件でよい。重要なのは、不利益を被る側に自分で説明したかどうかである。
(3) 取締役会・株主に対して説明した経験。 資料を作った経験ではなく、質問に自分で答えた経験を指す。社外取締役や投資家から詰められる場に立ったことがあるかどうかは、選考で必ず確かめられる。
この3つのうち、(2)と(3)は社内でポジションが変わらないと作りにくい。だから執行役員のまま年次だけが積み上がり、市場からの評価が止まる構造が生まれる。その構造については大企業の執行役員で終わるか、PEファンドで真のプロ経営者になるかで別途書いた。
COOに必要な資質そのものについてはCOOになれる人、なれない人に、役割の定義はCOOとはにまとめてある。
経歴書に書くときの注意
最後に実務的な話をひとつ。執行役員やCOOの経験を経歴書に書くとき、肩書と在任期間だけを書く人が多い。これは最ももったいない書き方である。
読む側が知りたいのは、上の3つである。取締役を兼ねていたか、見ていた損益の単位は何か、部門をまたぐ配分を決めたか。この3点を各1行添えるだけで、書類の通過率は目に見えて変わる。肩書の名称が会社ごとにばらついている以上、読む側は中身で判断するしかないからだ。
当社はPEファンド投資先や事業承継など、非公開の経営ポジションを扱っている。いまの立場が市場からどう見えるのか、次に何を埋めればよいのかを具体的に確かめたい方は、経営者のキャリア登録から相談してほしい。
