転職サイトで「CSO」と検索しても、出てくる求人が自分の想定と噛み合わない。件数も少ない。理由は市場の狭さだけではない。CSOは会社法に定めのある役職ではなく社内呼称にすぎず、同じ三文字が会社ごとに別の仕事を指しているからだ。
つまり肩書きで検索した時点で、母数を自分で削り、しかも中身の違う求人を同じ棚に並べてしまっている。見るべきは職種名ではなく、報告先・決裁範囲・評価指標の三つである。
※CSOとは: 一般には Chief Strategy Officer(最高戦略責任者)の略で、全社の戦略を担う役職を指す。ただし同じ略語が Chief Security Officer(情報セキュリティ)、Chief Sustainability Officer(サステナビリティ)、Chief Scientific Officer(研究開発)にも使われる。求人検索で無関係な職種が混じるのは、この重複が理由であることも多い。
CSOは法律上の役職ではない。だから定義が会社ごとに割れる
会社法が定めているのは、取締役・監査役・会計参与・会計監査人、そして指名委員会等設置会社の執行役といった機関である。CEOもCFOもCSOも、この一覧には出てこない。いずれも各社が自分で決めた呼び名であり、法律上の権限が肩書きに付いてくることはない。
法定の役職なら、権限と責任の輪郭が外から同じに見える。取締役なら取締役会の決議に加わり、その決議に責任を負う。ここは会社が違っても変わらない。一方でCSOには輪郭を与える法律がないため、誰に報告し、何を決めてよく、何で評価されるかは、その会社の設計次第になる。
米国企業の呼称が輸入される過程で、各社が自社の空白を埋めるためにこの名前を当てた。結果として、同じCSOという求人票が、まったく違う三つの仕事を募集することになった。
求人票の「CSO」は、おおむね三つの型のどれかである
1. 経営企画の延長型
中期経営計画の策定、予算の統括、経営会議の運営、取締役会資料の設計。CEO直属で全社を見るが、事業の損益に対する決裁権は持たないことが多い。予算と人員は、経営企画部の数名。
必要とされるのは、構想を数字に落とす力と、権限のない相手を動かす説得力である。事業部門から見れば「決めない立場の人が口を出してくる」構図になりやすく、社内の摩擦を引き受けるのが仕事の実体になる。
2. 資本戦略型(M&A・アライアンス)
買収・提携・資本政策・事業ポートフォリオの組み替え。CFOと隣接し、会社によっては境界が曖昧なまま並走する。予算は投資枠として持つが、既存事業の運営には関与しない。
必要とされるのは、案件を組成して閉じるまでの実務と、買った後をどう繋ぐかの設計である。ディールの本数ではなく、統合の結果で評価される会社かどうかが分かれ目になる。
3. 新規事業・変革型
既存事業の外に柱を作る、あるいは既存事業の構造そのものを組み替える。実行組織と損益を持つことが多く、実質的にはCOOに近い。肩書きだけがCSOになっている、と言ったほうが正確な場合すらある。
必要とされるのは、計画ではなく執行の実績である。撤退や人の入れ替えといった、後戻りできない判断を自分の権限で下してきたかが見られる。
この三つは、求められる経験が重ならない。 1型の実績で入った人が3型を期待されて詰まる、というのが最も典型的な事故である。求人票の肩書きが同じでも、着任後の一年でやることは別物になる。
肩書き検索が機能しないもう一つの理由
三型の混在に加えて、逆の問題もある。同じ仕事が、CSO以外の名前で募集されていることだ。
- 執行役員 経営戦略担当
- 経営企画本部長
- 事業開発責任者
- 取締役 CFO 兼 経営戦略担当
呼び方は各社の裁量だから、これらは全部CSOと同じ中身になりうる。CSOという三文字で絞り込むと、こうした求人が検索結果から丸ごと落ちる。母数が少ないのは市場が小さいからだけではなく、検索条件が肩書きになっているからである。
さらに、この層のポジションは求人票の形をとらないことが多い。その構造については経営幹部の求人が転職サイトに出てこないのはなぜかで書いた。肩書きを条件から外すことと、公開されている求人だけを母集団にしないことは、同じ問題の裏表になっている。
求人票から三型を見分ける、五つの問い
面談の場で確かめられる。抽象的な質問ではなく、事実を聞く形にするのがいい。
- 報告先はどこか — CEO直属か、COO・CFOの配下か。直属でない場合、全社戦略と言いながら実際には一部門の企画である可能性がある
- 予算と人員を持つか — 持たないなら1型。持つなら2型か3型で、その規模が期待値の大きさを示す
- 取締役か、執行役員か、部長か — 決議に加わる立場かどうかで、社内での通り方が変わる。ここは制度の話なので、肩書きの印象と切り離して確認する
- 前任者は誰で、なぜ空いたか — 前任がいない新設ポジションなら、要件は着任後に決まる。前任が短期で去っているなら、権限と期待がずれている疑いを持つ
- 一年後、何をもって成功と言われるか — 計画の提出か、事業の損益か、案件の本数か。ここへの答えがすぐ返ってこない会社は、まだ役割を決めきれていない
3の観点は、CSOに限らずこの層全体に効く。制度上どちら側にいたかで経験の読まれ方が変わることは、執行役員の転職は「役員経験」として読まれないでも書いたとおりである。
「戦略だけ」の席が難しいのは、成果を自分の言葉で説明しにくいから
1型で最も起きやすいのは、成果の帰属が曖昧になることだ。
計画を作り、事業部門を説得し、実行は事業部門が担う。数字が良くなっても悪くなっても、その原因を自分の判断に紐づけて説明しづらい。次に動くとき、職務経歴書に書けることが「中期経営計画の策定」「取締役会運営」といった作業名に寄ってしまう。
読み手が知りたいのはそこではない。何を決めて、誰に説明したかである。同じ1型の席でも、
- 撤退・投資の中止を、自分の起案で通したか
- 事業部門の予算配分を、自分の判断で組み替えたか
- 未達のとき、説明した相手は上司か、取締役会か、株主か
この三つに答えられる人と、答えられない人では、次の選択肢の幅が大きく変わる。着任前に権限を確かめておくことは、就いた後の働きやすさの問題であると同時に、その次に動くときの経歴の質を決める作業でもある。
CSOという職位そのものへの登り方はCSOのなり方|年収2,000万超えの経営人材が「戦略の番人」へと昇り詰める3つの要諦にまとめてある。この記事はその手前、募集の読み方の話である。
探し方を、肩書きから条件に組み替える
やることは単純で、検索の軸を三つ入れ替えるだけでいい。
- 職種名を外す — CSOで絞らない。経営企画・事業開発・戦略担当まで広げ、中身で選ぶ
- 資本構成を軸に入れる — 上場企業か、PEファンドの投資先か、オーナー企業か。株主が誰かで、戦略に与えられる時間軸と権限が変わる
- 決裁範囲を条件にする — 予算・人員・報告先。ここが書かれていない求人は、面談の一問目で確かめる
当社もPEファンドの投資先や事業承継など、公開されない経営ポジションを扱っている。求人票の形をとらない依頼が一定量あるという前提で、探し方そのものが組まれている領域だと理解してもらえればいい。条件を整理したうえで動くなら、経営ポジションを探している方へも見てほしい。
肩書きは会社が決めた呼び名にすぎない。中身を決めているのは、報告先と決裁範囲と評価指標の三つである。ここを先に見る癖をつけると、同じ求人票がまったく違って読めるようになる。
