経営企画からCxOや子会社社長を狙うとき、「経営企画に強いエージェント」を探す順番で動くと、たいてい外す。
理由は、エージェントの質ではない。経営企画の経歴は、どこに出しても同じ棚に入る形で書かれていることが多いからだ。棚は初回面談の前、経歴書を開いた30秒で決まる。棚が決まってから在庫を聞いても、出てくるのはその棚の席だけである。
だから先にやることは一つ。自分の仕事のうち、決定の責任が自分に寄っていた部分を特定して、それだけを前に出す書き方に直すこと。 以下、なぜ棚が先に決まるのかという構造と、直す場所を書く。
「経営企画」は、5つの別の仕事を指している
同じ「経営企画部」という部署名の下に、市場価値がまったく違う仕事が同居している。
- 中期経営計画の取りまとめ — 各事業部の数字を集め、整合させ、文書にする
- 予算・管理会計 — 予算編成、実績差異の分析、事業部との交渉
- M&A・投資の実務 — 案件の評価、デューデリジェンスの進行、投資委員会への起案
- 子会社管理 — 子会社の業績モニタリング、役員派遣、再建の企画
- IR・資本政策 — 投資家との対話、資本構成、株主還元の設計
読み手の側から見ると、3・4・5の経験は経営の席に直結する。資本と人事に触っているからだ。 一方で1・2は、経営の席の選考では「経営を支えた経験」として読まれる。支えた人を経営者として採る理由は、発注側にはない。
問題は、経歴書の上でこの5つが区別されずに「経営企画部にて中期経営計画の策定、予算管理、M&A検討に従事」と一行にまとめられることである。読み手は区別できないので、最も一般的な解釈——1と2——に寄せて読む。
経営企画の経歴は、決定の痕跡が残らない構造になっている
ここが本題だ。経営企画の人が「矮小化される」のは、エージェントが不勉強だからではない。仕事の記録の仕組みがそうなっている。
会社の重要な意思決定は、取締役会か経営会議で決議される。決議の主体は取締役である。経営企画部がやるのは起案・調査・調整で、議事録に残る決定者の名前は、ほぼ必ず自分ではない。
だから経歴に書けるのは「策定した」「取りまとめた」「推進した」になる。この3つの動詞には、決めたのか、決める人を手伝ったのかを区別する情報が入っていない。 読み手は曖昧な記述を安全側に読む習慣があるので、「手伝った」と解釈する。
事業部長の経歴とは対照的だ。事業部長は「売上を○億にした」「拠点を閉じた」と書ける。主語が自分で、結果が自分の責任範囲に閉じている。経営企画はここで構造的に不利になる。コーポレート機能の責任者が同じ壁に当たる話はコーポレート部門の責任者は、二つの値段で同時に見られているにも書いた。
つまり、エージェントを変えても棚は変わらない。 変わるのは、記述が「決めた」側の情報を持ったときだけである。
読み手が探しているのは「落とした選択肢」である
では何を書けば「決めた」と読まれるのか。採った案ではない。落とした案である。
経営の選考で確かめられているのは、良い案を作れるかではない。良い案は複数出る。経営の仕事は、どれも一定の理がある複数の案から、不可逆に一つを選び、他を捨てることだ。だから選考では落とした案を聞く。
- どの選択肢を検討し、どれを落としたか
- 落としたときに、誰が反対していたか
- 落とした結果、何を失ったか(必ず何かは失う)
- その判断を、いまならどう変えるか
この4つに答えられる経験は、経営企画の人にもたいていある。M&Aで見送った案件、撤退を提案して通らなかった事業、予算で削った投資。ただし経歴書に書かれていない。 通らなかった提案や見送った案件は「実績ではない」と判断して落とす人が多いからだ。
逆である。通らなかった提案は、判断の内容を自分の名前で語れる数少ない材料だ。 通った提案は、決定者の功績として記録されている。
経歴書を直す3か所
会う前に直すのは、次の3か所でよい。全面的な書き直しは要らない。
1. 担当した判断の範囲を、明示する
「中期経営計画の策定」ではなく、「3事業の投資配分案を起案。A事業の増設を見送る案を作り、事業部長と2か月協議して合意」。部の仕事ではなく、自分が引き受けた判断の範囲を書く。権限がなかったなら「起案と合意形成まで」と正直に書く。範囲が明示されているだけで、読み手は曖昧な解釈をやめる。
2. 数字は、結果ではなく判断の前後の差分で書く
「売上○億の計画を策定」は、計画を書いた人の数字でしかない。「投資枠の配分を変え、回収期間7年の案件を外した」のほうが、判断の中身が伝わる。全社の結果数字を自分の実績として書くと、読み手は反射的に割り引く。
3. 失敗を一つ入れる
落とした判断のうち、間違っていたものを一つ書く。選考の場では、これが最も検証しやすい情報になる。成功だけで構成された経歴は、確かめる手段がないため読み飛ばされる。 レファレンスを取る側にとっても、失敗の記述がある経歴書は裏が取りやすい。
それでもエージェントに会う順番
直したうえで会う。そのとき聞くことは2つで足りる。
- 「経営企画出身の人を、経営チームの席に入れた例は直近でありますか。その席は、どういう資本の動きから生まれましたか」 — 席の出どころが答えられないエージェントは、その席を自分で組成していない
- 「この経歴を推薦したとき、先方で最初に読むのは誰ですか」 — 人事部なのか、社長なのか、株主なのか。読み手が人事部なら、その席は経営の席ではない可能性が高い
エージェントごとに持っている席の種類が違う理由(在庫がどこから来るか)は役員の転職エージェントは「どこがいいか」では選べないに整理した。経営企画の人の場合は、その前段の経歴書の読まれ方で勝負が決まることが多いので、本稿では順番を逆にして書いている。
経営企画から先の道は、3方向しかない
最後に行き先の話をしておく。経営企画からの現実的な進路は、おおむね3つに収束する。
- CFO方向 — 予算・管理会計・資本政策の経験が効く。資本イベントの経験があるかで席の種類が変わる
- COO・事業責任者方向 — 一度、損益の責任を自分の名前で持つ必要がある。子会社や新規事業への異動が最短路になりやすい
- 子会社社長・投資先経営方向 — 子会社管理の経験が直結する。経営企画からいちばん近い「決定者の席」
どの方向でも、問われるのは同じことだ。決めた経験があるか。 経営企画のキャリアで何が分岐点になるかは【経営企画の転職・完全ガイド】に詳しく書いた。
当社はPEファンド投資先や事業承継など、非公開の経営ポジションを扱っている。経歴の読まれ方を含めて考えたいことがあれば、経営者としてのキャリアのページから受けている。
