管理職がヘッドハンティング会社に登録しても、何も起きないことのほうが多い。実力や経歴の問題ではない。ヘッドハンティング(エグゼクティブサーチ)は企業からのポジションの依頼で始まり、探す先は登録者の名簿ではなく、実在する企業の組織図だからだ。

つまり声がかかるかどうかを分けているのは、登録したかどうかではない。外から名前が見えているかどうかである。ここを取り違えたまま複数社に登録を重ねても、待つ時間だけが延びる。

※エグゼクティブサーチとは: 企業から特定ポジションの依頼を受け、条件に合う人物を市場から特定して接触する採用支援のこと。着手金・中間金・成功報酬の分割で支払われることが多く(リテーナー型と呼ばれる)、探す作業そのものに対価がつく点が、決まって初めて手数料が発生する登録型の人材紹介と異なる。

サーチは「人を探す仕事」ではなく「席を埋める仕事」

サーチファームの仕事は、依頼が届いた瞬間から始まる。順番はおおむねこうなる。

  1. 要件の定義 — その席で最初の一年に何を起こしてほしいのか。誰に対して結果を説明する立場なのかを、依頼主と詰める
  2. ターゲット企業の設定 — 同じ課題を過去に解いた人がいそうな会社を、業種・規模・資本構成から数十社に絞る
  3. 組織図の再構成 — その会社の中で、その課題を担っていた役職を特定する
  4. ロングリスト — 該当しうる個人の名前を並べる。数十名規模になる
  5. 接触 — 上から順に連絡し、関心と実像を確かめる

登録者データベースはこの流れの外にある。手元に該当者がいれば当然に候補へ入るが、探索の起点ではなく、照合先のひとつにすぎない。登録という行為は「4のリストに載る確率をわずかに上げる」以上の意味を持たない。

※ロングリストとは: 依頼されたポジションに該当しうる人物を、接触前の段階で広く洗い出した一覧のこと。ここから絞り込んだ数名がショートリストとして依頼主に提示される。載っていない人は、選ばれないのではなく、検討の対象にすらならない。

管理職の席は、そもそもサーチの依頼にならない

サーチになる席とならない席を分けているのは、肩書きの高さではない。要件を事前に文章化できるかどうかである。

部長・課長クラスの多くは、必要な経験も評価軸も着任前に書ける。書けるなら求人票になり、求人票になるなら登録型の人材紹介で足りる。数十万人規模のデータベースと突き合わせたほうが、探すより速くて安い。

一方で、着任してから何をすべきかを本人と一緒に決めるしかない席がある。事業の方向を変える、赤字の構造を作り直す、株主が替わった直後の会社をまとめ直す。こうした席は要件が固まらないまま人選が始まるため、突き合わせでは埋まらない。サーチという高い手段が使われるのは、この種の席に限られる。

だからサーチファームの窓口に管理職として登録すると、多くの場合はデータベース側に置かれる。無視されているのではなく、扱っている在庫の性質が合っていない。

同じ話は依頼元と収益モデルの側からも説明できる。人材紹介会社は「どこがいいか」で選べない。扱える案件は、報酬の受け取り方で先に決まっているで書いたとおり、会社の優劣ではなく構造が在庫を決めている。

リサーチャーが見ているのは、職務経歴書ではなく公開情報

ロングリストを作る段階では、まだ誰の職務経歴書も手元にない。ではどこから名前を集めるのか。ほぼすべてが公開情報である。

  • 有価証券報告書や統合報告書に載る役員・執行役員の一覧
  • プレスリリースの問い合わせ先や、事業責任者としてのコメント
  • IR説明会・カンファレンスの登壇者
  • 業界誌のインタビュー、専門メディアへの寄稿
  • 特許の発明者欄、学会や業界団体の委員名簿
  • 自社採用サイトの部門長インタビュー

ここに名前が一度も出ていない管理職は、能力と関係なくリストに載らない。会社の実績としては語られているのに、個人の名前と紐づいていない。管理職層で最も多く、最ももったいない状態がこれである。

対策は転職活動ではない。可視化である。社外の勉強会で話す、業界誌の取材を受ける、自社の採用サイトで部門を語る。どれも今の会社の中でできることで、しかも今の会社に対して後ろめたいことが何もない。「◯◯社の事業改革」として語られている実績を、「あなたの名前で語られる実績」に変えておく。それがリストに載るということの実務的な意味だ。

「規模」ではなく「決裁範囲」で書き直す

接触の後、実際に検討されるかどうかは経歴の書き方で変わる。管理職の経歴書は、たいてい規模で書かれている。部下◯名、予算◯億円、担当売上◯億円。

依頼主が見たいのはそこではない。何を自分の判断で決めたかである。

  • 撤退・値上げ・取引先の切り替えのような、後戻りできない判断をしたか
  • 人の採用と入れ替えを、自分の権限で決めたか
  • 損益計算書のどの行に対して、誰に説明する責任を負っていたか
  • 予算が未達のとき、説明する相手は上司だったか、それとも役員会や株主だったか

規模は会社の大きさで決まるが、決裁範囲は本人の立ち位置で決まる。同じ「事業部長」でも、稟議を上げる側と決裁する側では読まれ方がまったく違う。

この読まれ方の差は、役員の一歩手前でも起きる。執行役員の転職は「役員経験」として読まれないで書いたように、取締役会の決議側にいたかどうかが制度上の境界になっている。管理職の側から見ておくべきは、その境界の手前で何を積むかである。

登録が無駄なわけではない。期待の置き所が違う

ここまで読むと登録に意味がないように見えるが、そうではない。登録の効用は「いま決まる」ではなく「次に要件が回ってきたときに思い出される」ことにある。

サーチファームの担当者は、要件を受け取った瞬間に記憶と記録の両方をたどる。一度きちんと話した相手のことは、二年後の依頼で思い出される。だから初回の面談は、売り込む場ではなく記録を残す作業だと考えたほうがいい。

伝えるべきは、できることの一覧ではない。任されてきた範囲と、次に取りにいきたい範囲である。前者は事実として確認できるが、後者は本人しか語れない。「どの規模の会社で、どの立場から、何を変えたいのか」に答えを持っている管理職は、実際にはあまり多くない。

当社もPEファンドの投資先や事業承継のように、公開されない経営ポジションを扱っている。求人票の形をとらない依頼が一定量あるという前提で、探し方そのものが組まれている領域だと理解してもらえればいい。

管理職から経営人材へ、順番を間違えないために

やることは三つで、順番がある。

  1. 社内で決議側の経験を取りにいく — 子会社の役員、買収後の統合責任者、新規事業の損益責任。肩書きより、決めて説明した実績が残る場所を選ぶ
  2. 名前を外に出す — リストに載らなければ、どれだけ優秀でも検討は始まらない
  3. サーチと接点を持っておく — 動く予定が今日なくてよい。声のかかる位置にいるかどうかが、数年後の選択肢の数を決める

登録して待つのは、この三つのうち最後のひとつでしかない。それを最初にやって何も起きないのは、当然といえば当然である。経営ポジションを射程に入れるなら、経営ポジションを探している方へも参考にしてほしい。