転職エージェントのカオスマップは、業界の会社名を一枚の図に並べたものです。見れば会社の数はわかりますが、自分が狙っている席がどこにあるかは書かれていません。

経営層(CEO・CFO・COOなど)の案件を探しているなら、地図の引き方を変える必要があります。会社名で分けるのではなく、「席の情報を、誰が最初に持つか」で分けるのです。この順番で見ると、経営層の案件は5つの層を上から下へ、時間差で流れていることがわかります。

結論から言えば、カオスマップで会社数がいちばん多い層は、情報がいちばん遅く届く層です。登録先を10社に増やしても、同じ層の中で増やしているなら、来る情報は変わりません。

席の情報が流れる5つの層

上から順に、情報が早い層です。

第1層:株主・投資家と、社長本人の人脈。 社長やCFOの席が空くことが決まるのは、まずここです。オーナー、PEファンドの投資担当、社外取締役、取引先の経営者。この層では「席ができる前」から名前が挙がります。求人という形にはなりません。

第2層:エグゼクティブサーチ(リテーナー型)。 企業や株主から直接依頼を受け、候補者を一から探す会社です。依頼は非公開で、募集要項が外に出ません。候補者は登録して待つのではなく、調べられて声をかけられます。

※リテーナー型とは: 依頼を受けた時点で着手金を受け取り、決まるかどうかにかかわらず調査と探索を行う契約形態です。決まったときだけ報酬が発生する「成功報酬型」と対になります。着手金があるため、依頼側は本気の席でしか頼みません。つまりこの層に出た案件は、埋める意思が固まっている席です。

第3層:人材紹介(成功報酬型のエージェント)。 企業の人事部門から依頼を受け、登録している候補者の中から推薦します。扱う層の中心は部長から執行役員。社長の席も扱いますが、多くは第1層・第2層で埋まらなかったあとに回ってきます。

第4層:ハイクラス向けスカウトプラットフォーム。 職務経歴を登録しておくと、企業やエージェントからスカウトが届きます。情報の量は最大ですが、席の主語が「企業の採用担当」になるため、社長の席は相対的に少なくなります。

第5層:公開求人(転職サイト・自社採用ページ)。 誰でも見られる形で募集要項が出ている層です。経営層の席がここに出るのは、上の4層で埋まらなかったか、公募にする理由(公的機関、上場企業の透明性要請など)がある場合です。

なぜ上から下へ落ちてくるのか

構造の理由は単純です。経営者の席が空くという情報は、会社にとって外に出したくない情報だからです。

社長やCFOが交代するという話は、取引先、金融機関、従業員、競合の全員に意味を持ちます。だから企業はまず、情報が漏れない範囲で探します。株主の人脈(第1層)と、守秘を前提に動くサーチ会社(第2層)です。それで決まれば、下の層には情報が存在したことすら残りません。

ここで埋まらなかったときに初めて、依頼先が広がります。候補者の母数を増やすには、情報を知る人を増やすしかない。だから第3層、第4層へと降りていきます。

つまり第5層でCEO求人を見つけたとき、その席はすでに上の層を一巡している可能性があります。 競合が少ないのではなく、上で決まらなかった理由がどこかにある、と読むのが正確です。

自分がどの層に見えているかを点検する

カオスマップを見て「どこに登録するか」を考えているなら、主語が候補者側になっています。経営層の席は、席ができた瞬間に名前が挙がる人のところに行きます。だから点検すべきは登録先の数ではなく、自分の名前が、どの層の誰の手元にあるかです。

点検は3つで足ります。

  1. 第1層に自分を知っている人がいるか。 前職のオーナー、投資家、社外役員。1人でもいれば、席ができる前の情報に触れる可能性があります
  2. 第2層に、自分の実績が「調べられる形」で残っているか。 サーチ会社は公開情報から候補者を見つけます。業界誌の記事、登記、IRの開示、講演。経歴書を登録していなくても見つかるのは、この種の痕跡があるときです
  3. 第3層以下で、同じ案件が何度も来ていないか。 複数のエージェントから同じ会社の話が来るのは、その案件が第3層に広く降りているサインです

面談で確かめる3つの質問

エージェントやヘッドハンターと話すとき、相手がどの層にいるかは質問でわかります。

  • 「この話は、どちらからのご依頼ですか」——人事部門からか、社長・株主からか。答えで層が切り分けられます
  • 「募集要項は公開されていますか」——公開されているなら第4層・第5層です。非公開なら上の層の可能性があります
  • 「いま何名に声をかけていらっしゃいますか」——リテーナー型のサーチは、同時に多数へ声をかけません。数十名という答えなら、母数を集める段階の案件です

答えにくい質問ではありません。守秘の範囲で答えられる内容ですし、答えを渋る相手なら、そこで相性がわかります。

地図よりも、順番

カオスマップが役に立たないわけではありません。ただし使い方は、「どこに登録するか」を選ぶためではなく、自分がいま第何層の情報を見ているかを確かめるためです。

第5層の求人を熱心に探している状態と、第1層に名前がある状態は、同じ「転職活動」とは呼べません。後者には、まだ求人になっていない席の話が来ます。

会社の名前で引いた地図のほうを知りたい方には、ヘッドハンティング会社カオスマップは、業界ラベルでは読めないで、ファームの3つの型と託す相手の選び方を書いています。

当社は、PEファンド投資先や事業承継など、非公開の経営ポジションを扱うエグゼクティブサーチです。経営層の案件がどこで動いているかはPEファンド傘下の幹部採用はどこで行われるのかに、エージェントへの接し方はCEO案件を扱うエージェントへの依頼の仕方に書いています。非公開のポジションの話を受け取りたい方は経営者としてのキャリアをご覧ください。