案件が小さくなると、最初に壊れるのは要件定義です。フルセットのCEO要件を小型案件に書くと、該当する人は口説けず、口説ける人は該当しないという状態になります。報酬原資とExitのアップサイドが、要件の重さに追いつかないからです。

2026年9月の統計は、この局面に入ったことを示しています。以下、報道された事実を確認したうえで、小型化を前提に経営者招聘の工程をどう組み替えるかを書きます。

報道された事実

M&A Online(マールオンライン)の集計によると、2026年9月のM&A件数(適時開示ベース)は127件で、3桁超えを14カ月連続で維持しました。一方、取引金額は4563億円で前年同月比約49.2%減、前年割れは4カ月連続です。

経営者招聘の観点で重いのは次の2点です。

  • ファンドが介在した案件は8件(前年同月10件)
  • ファンド案件の1件あたり平均取引額は約311億円で、前年同月比約37%減

同報道は、東証の上場維持基準への対応に伴うTOBなど、ファンド介在の案件が一巡したとの見方を示しています。クロスボーダー案件も17件・1197億円(金額で74.6%減)と縮小しました。

以下は公開情報からの推測です。件数が高水準のまま金額だけが落ちているということは、ディールの本数は確保できているが、1件の規模が小さい案件に構成が寄っていると読めます。ここから先の論点は、その構成変化が採用工程のどこに効くかです。

小型化が効くのは「報酬原資」ではなく「要件の密度」

取引規模が縮むと、まず報酬の絶対額が制約されます。ただし、現場で先に壊れるのは報酬そのものではありません。要件定義です。

理由は単純です。企業価値が数百億円の案件で書いていたCEO要件——同業での経営経験、PEファンド傘下での勤務経験、大規模な事業再構築の実績、英語での資本市場対応——をそのまま小型案件に書くと、要件を満たす人材の市場相場が、案件が払える水準を超えます。

結果として起きるのは2つです。

  1. 要件に合う候補に当たるが、提示できる報酬とアップサイドで振り向いてもらえない
  2. 要件を下げずに探し続け、選考が半年を超える

要件を積むほど採用が遅くなる構造自体は規模に関係なく働きます(CFOの要件を積むほど採用は遅くなる)。小型案件では、その遅延がそのままホールド期間を削ります。

壊れる順番は3か所ある

1. 役を1人に載せてしまう

大型案件では、CEOの下にCFO・COOを別途据える前提で要件を書けます。小型案件ではその余裕がないため、1人に全部載せた要件になりがちです。

ここで必要なのは、役を分けたうえで「常勤でなくてよい役」を切り出すことです。資本市場対応や金融機関との交渉を非常勤の会長・社外役員が持ち、常勤社長には事業運営と組織の立て直しを持たせる二層構造にすると、常勤側の要件が現実的な水準に下がります。

局面ごとに確かめることが違うという前提は経営人材の面接で何を聞くかで整理していますが、小型案件ではそれ以前に**「何人の役として書くか」**を決める工程が要ります。

2. トップ初登板を排除してしまう

社長経験者だけを候補に置くと、小型案件では母集団がほぼ消えます。経験者の相場が案件の払える水準と合わないためです。

打ち手は、トップ初登板を正面から前提に置くことです。ただし「経験がないが伸びしろがある」という評価では事故が起きます。確かめるべきは意思決定の単独性です。

  • 前職で、上に相談せず自分で決めた意思決定は何か。金額と期間で聞く
  • 引き算の決定をしたことがあるか。撤退、人の入れ替え、投資の停止。やめる決定は、トップ経験の代替指標として最も読める
  • その決定を覆されたときどうしたか。小型案件では株主との距離が近く、決定が差し戻される頻度が高い

この3問に具体的な事実で答えられる候補は、社長未経験でも立ち上がります。答えが「チームで合意形成しました」に収束する候補は、規模を問わず難しい。

3. オファーで「権限」を定義しないまま条件だけ出す

報酬の絶対額で勝てない案件で効くのは、決められる範囲の明文化です。小型案件の経営者が最も嫌うのは報酬の低さではなく、権限が曖昧なまま責任だけ渡されることです。

オファー前に確定させるべき項目はオファーレターで手が止まるのは、文面の問題ではないで挙げていますが、小型案件では特に次の3つを数字で決めてください。

  • 予算の単独決裁枠:いくらまでを社長の決裁で動かせるか
  • 人事権の範囲:執行役員層の入れ替えに株主承認が要るか
  • 撤退の決定権:不採算事業の停止を誰が決めるか

この3つが決まっていれば、報酬が同条件の大型案件に劣っても候補は残ります。決まっていなければ、報酬を積んでも辞退されます。

レファレンスで聞くことも変わる

小型案件は失敗の吸収余地が小さく、立ち上がりの遅さがそのままリターンに出ます。したがってレファレンスの焦点は、能力の有無ではなく速度です。

  • 着任から最初の意思決定までの日数はどれくらいだったか
  • 既存幹部のうち残した人・外した人の判断を、いつ下したか
  • 数字が出るまでに何を先にやめたか

人格評価を聞いても判断材料になりません。時間軸で聞くと差が出ます。

着任後100日の設計も、規模で変わる

大型案件では100日を現状把握に充てる設計が成り立ちます。小型案件では、100日目には最初の引き算が終わっている必要があります。経営資源が薄いため、やめることを決めない限り、新しい施策に人を回せません。

この前提を選考段階で候補と共有しておくと、入社後の期待値のズレが減ります。逆に「まずはじっくり見てください」と伝えて迎えると、3か月後に株主側が焦る構図になります。

まとめ

  • 2026年9月はファンド介在8件・1件あたり平均311億円(前年同月比約37%減)。件数は高水準でも規模が縮んでいる(M&A Onlineの集計)
  • 小型化で先に壊れるのは報酬ではなく要件の密度。大型案件の要件をそのまま書くと、該当者は口説けず、口説ける人は該当しない
  • 打ち手は3つ。役を分けて常勤でなくてよい役を切り出す/トップ初登板を前提に意思決定の単独性で見極める/報酬で勝てない分を権限の明文化で埋める
  • レファレンスは能力ではなく立ち上がりの速度を時間軸で聞く
  • 着任後100日の設計は、把握ではなく最初の引き算を終える設計に変える

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