日本の会社法に「CEO」という役職は存在しない。登記簿に載るのは「取締役」と「代表取締役」であって、CEOでもCOOでもない。つまり日本では、CEOという肩書きそのものが権限を何ひとつ保証しない。

だから「CEOとして来てほしい」と言われたとき、確かめるべきは肩書きではない。代表権があるか、取締役会に議決権のある席があるか、契約はどの型か——この3つで、同じ「CEO」が別物になる。

この記事は、CEOと社長の役割がどう違うかという話ではない(それはなぜ日本の「社長」は「CEO」として機能しないのかで書いた)。招かれる側が、就任を受ける前に何を確かめるべきかという、手続きと権限の話である。

「CEO」は、日本では社内呼称にすぎない

会社法が定めているのは、取締役・代表取締役・監査役・会計参与といった機関であり、指名委員会等設置会社であればこれに執行役・代表執行役が加わる。CEO・COO・CFOはいずれもこの中に入っていない。アメリカの会社法制で使われてきた呼称を、日本企業が社内の職制として借りて使っているのが実態である。

結果として、こういうことが起きる。

  • CEOという肩書きは登記されない。取引先も金融機関も、登記簿でその人の代表権を確認できない
  • 対外的に会社を代表する権限(代表権)は、あくまで代表取締役(または代表執行役)にある
  • したがって「CEO」の名刺を持っていても、契約書に単独で署名できるとは限らない

ややこしいのは、会社法には「代表権があると見える肩書きを与えた場合、会社はその外観を信じた第三者に対して責任を負う」という趣旨の定めがあることだ。社長・副社長といった名称が典型だが、対外的な信用の話であって、社内で本人が持つ決裁権限が増えるわけではない。肩書きは外から見える看板であり、権限は別の書類で決まっている。

同じ「CEO」が、三通りに分かれる

招かれる側から見ると、CEOという席は実際には次の三つのどれかである。ここを取り違えたまま就任する人は少なくない。

1. 代表取締役CEO

登記され、代表権を持つ。契約を締結でき、対外的に会社そのものとして振る舞える。同時に、会社に対する善管注意義務(経営者として通常求められる注意をもって職務にあたる義務)と忠実義務を負い、判断を誤れば任務懈怠として責任を問われる立場でもある。権限も責任も最も重い。

2. 取締役CEO(代表権なし)

取締役会の一員として議決権を持ち、経営の意思決定に加わる。取締役としての義務と責任は1と同じく負う。ただし代表権はないので、対外的な最終署名は代表取締役に委ねられる。オーナーや親会社、ファンドが代表権を手元に残したまま執行を任せる形で、この設計はよく使われる。

3. 取締役ではないCEO(執行役員CEOなど)

肩書きだけがCEOで、取締役会に席がない。これが最も見落とされやすい。 取締役としての義務は負わないが、裏を返せば経営の方針を決める場に議決権を持たない。決まったことを執行する責任だけが手元に残り、何を決めるかには関与できない、という構造になり得る。

三つの違いは、名刺の上ではまったく見えない。見えるのは登記簿と、取締役会の構成と、契約書だけである。

なぜ、この違いが就任後の成否を分けるのか

肩書きの法的な位置づけは、手続きの話に見えて、実際には三つの実務に直結する。

第一に、決められる範囲が変わる。 経営者の仕事は、投資・人事・撤退のような後戻りしにくい意思決定に集中する。これらの多くは職務権限規程と取締役会付議基準で「いくら以上は取締役会マター」と線が引かれている。取締役会に席がなければ、自分が必要だと判断した投資を、自分では決められない。再生局面やM&A後のように時間が価値を決める場面で、この一段の遅れが結果を変える。

第二に、責任の重さが変わる。 取締役は会社との委任関係にある。雇用ではないため、労働法が想定する保護はそのままは及ばない。任期があり、任期満了で当然に終わり、株主総会の決議があればいつでも解任され得る(正当な理由のない解任について損害賠償を請求できる余地はあるが、地位そのものは戻らない)。加えて、役員退職慰労金は就業規則で保証された権利ではなく、株主総会の決議がなければ発生しない。この点は取締役の退職金は約束されていないに詳しく書いた。

第三に、辞め方が変わる。 取締役の地位は辞任届で終えるもので、退職届を出す話ではない。後任がいなければ辞任してもすぐには抜けられないこともある。非取締役のCEOであれば、この論点は生じない代わりに、経営者としての履歴に「取締役として意思決定に参画した」と書けるかどうかが変わってくる。次の席に進むときの経歴の意味が変わるということだ。

権限が大きいほど良い、という単純な話ではない。オーナー企業で代表権を持たずに執行に徹する設計が合理的な場合もあるし、責任範囲が明確な非取締役のポジションが適している局面もある。問題は、どの席に座るのかを知らないまま座ることである。

就任を受ける前に確かめる4つ

面談の場で聞いても失礼にならない。むしろ、ここを聞かない候補者のほうが、経営を任せる側からは不安に映る。

  1. 登記上の地位は何か。 代表取締役なのか、取締役なのか、どちらでもないのか。あわせて、就任がいつの株主総会・取締役会で決議される予定かを確認する。内定は就任ではない。決議を経て初めて地位が生じる
  2. 取締役会に議決権のある席があるか。 ない場合、誰が最終的に決めるのか。オーナーか、親会社か、ファンドの投資委員会か。意思決定の場に自分がどう関与できるのかを、具体的な会議体の名前で確かめる
  3. 決裁権限はどこまで文書化されているか。 職務権限規程と取締役会付議基準を見せてもらう。投資・採用・撤退のどこからが自分の裁量外かが、金額と項目で書かれているはずである。書かれていない会社は、就任後に「話が違う」が起きやすい
  4. 契約の型と、終わり方。 委任契約か雇用契約か、任期は何年か、中途で解かれたときの報酬の扱いはどうなるか、競業避止の範囲はどこまでか。始まりの条件より、終わりの条件のほうが後から効いてくる

肩書きを厚くする側の事情も読む

「CEO」という呼称が先行する会社には、たいてい事情がある。対外的な説明のしやすさ(顧客・金融機関・採用市場に対して、決定権者が誰かを一言で示せる)、グローバル取引先との整合、あるいは資本と執行が分かれている構造そのものだ。

PEファンドの投資先や、第三者への事業承継のように、株主と経営者が別になる局面では、代表権をどこに置くかは資本側のガバナンス設計そのものである。肩書きの厚さと権限の実体がずれること自体は、必ずしも不誠実の証ではない。読み取るべきは、そのずれが意図されたものか、単に誰も整理していないだけなのかという点にある。前者なら設計意図を聞けば答えが返ってくる。後者なら、就任後に整理する仕事が最初の仕事になる。

なお、こうした席の多くは公開の求人にはならない。既存の経営陣や取引先への影響があるため、募集そのものが表に出ないまま進む。非公開の経営ポジションがどこで動いているかという構造については、別稿で扱っている。

まとめ

  • 日本の会社法に「CEO」という役職はない。登記されるのは取締役と代表取締役であり、肩書きは権限を保証しない
  • 同じCEOでも、代表取締役CEO/取締役CEO/取締役ではないCEOの三通りに分かれ、決められる範囲も責任も辞め方も違う
  • 確かめるのは4つ。登記上の地位、取締役会の議決権、決裁権限の文書、契約の型と終わり方
  • 肩書きと権限のずれは、意図された設計であることも、誰も整理していないだけのこともある。どちらなのかを就任前に見極める