代表理事の席は、求人に応募して「採用」されるものではない。社員総会か評議員会で理事に選任され、その理事の中から代表理事(医療法人や社会福祉法人では理事長)が選定される。つまり、あなたを選ぶのは人事部でも株主でもなく、持分を持たない合議体である。

そして報われ方も違う。一般社団法人・医療法人・社会福祉法人は、いずれも剰余金を個人に分配できない。株式を持てないので、キャピタルゲインという出口が構造上存在しない。株式会社の社長ポジションと同じ基準で検討すると、判断を間違える。

違いは肩書きの呼称ではなく、「誰に選ばれ、誰に対して責任を負い、何で報われるか」の三つにある。順に見ていく。

代表理事は「代表取締役」の言い換えではない

形式だけを並べると、株式会社とよく似ている。

株式会社 一般社団法人 社会福祉法人
役員を選ぶ機関 株主総会 社員総会 評議員会
代表者を決める機関 取締役会 理事会 理事会
選ぶ人の持分 あり(株式) なし なし

二段構えの選任プロセスは同じだ。違うのは一段目を握る人の性質である。

株式会社では、議決権は株式に付いている。だから株が動けば社長も替わる。買収されれば経営陣が交代するのは、株主が替わったからだ。

非営利法人では、社員や評議員は持分を持たない。持分がないので売買もできず、「株が動いて体制が変わる」という経路が存在しない。 代わりに、誰が社員・評議員として残り続けるかが実質的な支配を決める。だから代表理事の交代は、資本の論理ではなく合議体の構成で動く。

※評議員会とは: 社会福祉法人に置かれる最高議決機関で、理事・監事の選任と解任、定款の変更、役員報酬の支給基準の承認などを決議する。株式会社の株主総会に相当する位置にあるが、評議員は出資者ではなく、法人の財産に対する持分を持たない。評議員と理事の兼任は認められていない。

役員の選任そのものの作法(内定から就任までの間、あなたは法的に何者でもないこと)は、役員は「採用」されない、選任されるに書いた。代表理事の席でも、この時間差は同じように発生する。

「企業価値を上げて売る」というゴールが存在しない

株主に対して負う責任は、最終的に金銭的なリターンに還元できる。企業価値を上げ、配当か売却で返す。評価軸が一本なので、経営者の仕事も定義しやすい。

非営利法人では、この一本軸がない。剰余金の配当は法律で禁じられており、解散しても残余財産が個人に帰属することはない。では何で評価されるのか。実務上は次の四つに分かれる。

  1. 定款に書かれた事業の継続性(止めないこと。縮小は後退と見なされやすい)
  2. 許認可の維持(医療・介護・保育はここが生命線。行政指導の一本が事業計画を飛ばす)
  3. 財務の健全性(黒字の大きさではなく、赤字を出さないことと資金の厚み)
  4. ガバナンスが機能していること(理事会が実質的に議論しているか)

ここで起きる誤解が一つある。利益を追わないのだから経営は楽だ、という読み方だ。逆である。上に伸ばして点を稼ぐ経路が閉じているため、評価は「落とさなかったこと」に偏る。 成果が見えにくく、失点だけが明確に見える構造で、数年にわたって合議体の信任をつなぎ続ける仕事になる。

報酬は交渉ではなく「支給基準」で決まる

ここが実務上いちばん大きい。

社会福祉法人では、役員報酬等の支給基準を評議員会の承認を得て定め、公表しなければならない(社会福祉法)。あなたの報酬は、法人のウェブサイトに載る公開情報になる。医療法人や一般社団法人でも、定款の定めか社員総会・評議員会の決議で決まるのが通常だ。

だから入る前に聞くべきことは、「いくらもらえますか」ではない。

  • 支給基準はどの文書に書かれているか。いま見せてもらえるか
  • その基準を改定するには、誰の決議が必要か
  • 公表義務があるか。あるなら、直近の公表値はいくらか

そしてもう一つ。ストックオプションもExitボーナスもない。 固定報酬の水準と任期の長さが、受け取る総額をほぼそのまま決める。株式会社の経営者ポジションで報酬の後半をインセンティブに寄せる交渉をしてきた人は、同じ組み立てが使えない。年収の額面だけを並べて比べると、「年収ダウンの転職」は是か非かで書いたのとは別種の判断ミスが起きる。固定しかないのだから、固定で足りるかを先に決める必要がある。

医療法人の理事長には、資格の壁がある

医療法人を検討するなら、ここは最初に確認する。

医療法では、理事長は医師または歯科医師である理事から選出するのが原則で、それ以外の人が理事長に就くには都道府県知事の認可が必要になる。経営の専門家を理事長に迎える話は、この認可の見込みから逆算することになる。

結果として、非医師の経営人材が入る席は、理事長ではなく専務理事・常務理事や事務長、あるいは法人本部長といった名称になることが多い。席の名前で権限を判断しないこと。 重要なのは、理事会で議決権を持つ理事なのか、理事ではない執行側の職員なのかである。理事でなければ、経営の意思決定の場に票を持たない。

任期がある。再任は自動ではない

理事の任期は、一般社団法人・医療法人・社会福祉法人のいずれも2年を上限とする設計になっている(定款で短縮できる)。再任には改めて決議が必要だ。

株式会社の社長も任期はあるが、支配株主の信任が続く限り更新は事実上の形式になる。非営利法人では、票を持つのが持分のない複数人なので、2年ごとに信任を取り直す作業が明示的に発生する。 就任時に確認すべきは任期の長さそのものではなく、次の更新で誰の賛成が必要になるか、その人数である。

就く前に確かめる5つ

  1. 議決権の構成。社員または評議員は何人で、どういう属性か。実質的に誰の意向で決議が動くか
  2. 代表理事の選定経路。理事会で選定するのか、定款に別の定めがあるのか。理事会の顔ぶれは誰か
  3. 報酬の支給基準。文書があるか、改定の決議者は誰か、公表義務があるか
  4. 前任者がなぜ退いたか。任期満了か、途中の辞任か。辞任なら、何が折り合わなかったのか
  5. 代表者保証の有無。借入のある法人では、金融機関から代表者個人の保証を求められる場面がある。非営利だから個人のリスクがない、とは限らない

4番は特に飛ばさないほうがいい。合議体で選ばれる席は、合議体と折り合わなかったときに辞める席でもある。前任者の退任理由は、その法人の意思決定が実際にどう動くかを示す、いちばん手に入りやすい材料だ。

この席に、どう接点を持つか

非公開の経営ポジションを扱っている立場から見ると、代表理事の席は株式会社の社長ポジションよりもさらに公募されにくい。求人票にならない理由は単純で、公募して選ぶ機関が存在しないからである。決議の前に合議体の中で候補が固まっているのが通常の順序だ。

したがって接点は、その法人の理事や顧問、取引のある金融機関、監査法人、同業の法人経営者といった既存の関係者の側にある。公開情報から当たるなら、評議員・理事の名簿と事業報告書が最初の資料になる。どちらも多くの法人が公表している。

株式会社の社長の席と、代表理事の席を、同じ検討の机に並べて構わない。ただし比べる項目を変える必要がある。株式会社では「誰が株を持っているか」を見る。非営利法人では「誰が票を持ち続けるか」を見る。 この一点を取り違えなければ、判断の材料はそろう。

経営の席をお探しであれば、非公開の経営ポジションから、どの型の席を見ているかを伝えていただくのが早い。