経営ポジションの打診が、「まずは顧問で入っていただいて」という形で来ることがある。
これは値踏みではない。会社が、自分の側のリスクを分割しているのである。だから受けるかどうかは、相手の本気度を疑うかどうかではなく、顧問期間の出口が定義されているかで決めればいい。定義されていなければ、高い確率で顧問のまま終わる。
※顧問とは: 会社法上の役員ではなく、登記もされない。多くは雇用ではなく業務委託(準委任)契約で結ばれ、決裁権限を持たない。取締役とは、負う責任も、動かせる範囲も別物である。
なぜ会社は、いきなり代表にしないのか
代表取締役の交代は、会社にとってやり直しの効かない決定である。理由は三つある。
ひとつは手続きの重さだ。取締役は株主総会の決議で選任され、取締役会設置会社であれば代表取締役は取締役会の決議で選定される。そして登記される。入れるのも外すのも、機関決定と登記の手続きを伴う。
ふたつめが、外し方のコストである。会社は取締役を株主総会の決議でいつでも解任できるが、解任に正当な理由がなければ、解任された側は会社に損害賠償を請求できる(会社法339条2項)。ここでいう損害には、残任期分の報酬相当額が含まれると解されている。「合わなかったので任期途中で交代」は、会社にとって金額の読めない支出になりうる。
みっつめが説明の問題だ。代表者が短期間で二度替われば、取引先も銀行も、社内も動揺する。一度目の交代は改革に見えるが、二度目は迷走に見える。
この三つを前にして、会社は「合わなかった場合の撤退コスト」を先に下げようとする。業務委託契約の顧問なら、期間満了で静かに終えられる。登記も要らず、社外への説明も不要だ。「まずは顧問で」は、その撤退コストを下げるための設計である。
本人にとっても、顧問期間は情報を取る期間になる
会社側の事情だけで見れば不利な話に見えるが、この期間は候補者の側にも効く。
選考のプロセスで分かることには、構造的な限界がある。面接で見えるのは、会社が見せると決めたものだけだ。数字は資料で読めるが、その数字がどう作られているかは資料に書かれていない。
中に入らないと分からないことは、たとえばこういうものである。
- 意思決定を最後に止めているのは誰か。役職上の決裁者と、実際の拒否権者は一致しないことが多い
- 前任者が何をして、何をしなかったのか。退任の理由として語られる話と、現場で語られている話がどれだけ違うか
- 株主やオーナーが、どの深さまで日常に関与してくるのか
- 数字を作っている顧客・取引先が、会社に付いているのか、特定の個人に付いているのか
最終面接を一度通っただけでは、ここは見えない。顧問期間は、これを自分の目で確かめられる数少ない機会である。だから、受ける価値そのものはある。 問題は条件のほうだ。
顧問のまま終わる、3つの構造
顧問から代表に上がらなかった例には、本人の力量とは別の、繰り返し現れる構造がある。
1. 出口が定義されていない
「まずは数か月、様子を見ながら」で始まった話は、そのまま終わりやすい。何をもって取締役に上げるのか、いつ、誰が判断するのかが決まっていないからである。
会社は、決めないことのコストを払わない。顧問がいる状態は、会社にとって悪くない。外部の知見が入り、コストは役員報酬より軽く、失敗しても撤退できる。決めないほうが快適な相手に、自分から期限を切らせる必要がある。
2. 決裁権のない場所で、実行の成果を求められる
顧問は決裁権を持たない。人事も予算も動かせない。その立場で「成果を見せてください」と言われると、できることは提言までになる。
提言は、通れば会社の手柄になり、通らなければ提言した側の評価になる。しかも顧問には、通らなかった理由を組織の問題として説明する立場がない。権限のない期間に実行の成果を測られる契約は、負けの取り込み方が構造的に不利である。
3. 「顧問」という役割が、社内で固定される
半年も経つと、組織はその人を顧問として扱うことに慣れる。意見を聞く相手であって、指示を受ける相手ではない、という関係が定着する。
そのあとで代表として着任すると、同じ人物が急に決める側へ回ることになり、社内は切り替えに時間を要する。段階を踏んだはずが、かえって着任を難しくしている。 期間が長いほどこの反作用は強くなる。
受ける前に確かめる4つ
出口の定義
いつ、誰が、何を見て判断するのか。「3か月後の取締役会で、取締役選任の件を株主総会に上程するかを決める」という粒度まで詰める。口頭の合意はほぼ引き継がれないので、覚書でも議事録でも、文字にして残る形にしておく。
権限と、求められる成果の対応
決裁権を渡さないのであれば、その期間に求める成果は「診断と計画」であると合意する。実行の成果を求めるなら、それに見合う権限——せめて特定領域の決裁権か、会議体の議長——を渡してもらう。ここがずれた契約は受けない。
報酬を、二段で決める
顧問料そのものより重要なのが、就任後の報酬水準を、顧問契約を結ぶ前に合意しておくことである。顧問料は稼働に対する対価であって、経営を預かる対価ではない。にもかかわらず、先に決まった数字は基準として残る。顧問料で妥協すると、就任時の交渉がその水準から始まる。
競業避止の範囲
業務委託契約には競業避止条項が入っていることが多い。顧問のまま終わったときに、同業の案件をどの範囲・どの期間で受けられなくなるのかを、契約前に確認する。数か月の顧問期間と引き換えに、その後一年の選択肢を狭めるのは割に合わない。
誰が最終的に決めるのかを、先に特定する
「まずは顧問で」という打診が来る会社には、いくつか型がある。そして型ごとに、最終的に決める人が違う。
- PEファンドの投資先: 投資実行の前後で、経営体制がまだ固まっていない段階。決めるのは投資委員会であって、日常でやり取りする投資担当者ではない
- 事業承継のオーナー企業: 外から後継者を入れる決断を、オーナーが最後まで迷っている段階。決めるのはオーナー個人で、役員会の合意は後追いになる
- 上場企業: 指名委員会や取締役会の手続きがあり、いきなり代表にはできない段階。決めるのは委員会で、時期は会社の年間スケジュールに縛られる
確かめるべきは、目の前で熱心に話している人が、決める人なのかどうかである。決める人でないなら、その人から出口の定義は出てこない。出してもらうべき相手が別にいる、というだけの話である。
顧問という入口そのものは、悪い話ではない。会社がリスクを分割したいのは当然であり、こちらも中を見てから決めたい。利害は本来一致している。
分かれ目は、その期間に双方が同じ出口を見ているかだけである。見ていれば、顧問期間は選考の延長として機能する。見ていなければ、時間だけが過ぎる。
当社は、PEファンドの投資先や事業承継の企業など、公開されない経営ポジションを扱っている。打診の形が顧問であれ取締役であれ、確かめるべき条件は変わらない。経営ポジションをお考えの方へに、扱っている領域をまとめている。関連して、経営幹部の転職は、求人を探し始める前に3つ決めるでは、株主・任期・報酬の形から案件を見極める順序を書いた。
