会社の株式を譲渡しても、社長個人が銀行に差し入れた連帯保証は、自動では外れない。

外すには、金融機関が別に同意する必要がある。株式を売る契約は売り手と買い手の契約であって、銀行はその当事者ではない。だから契約書に「解除する」と書いてあること自体は、外れたことを意味しない。

会社を残すために譲渡を選んだオーナーが、譲渡後も個人として借入の責任を負い続ける——これは制度の不備ではなく、手続きが一つ残っているだけである。残っていることに気づかないと、気づくのは何年か後になる。

※連帯保証(経営者保証)とは: 会社が銀行から借りるとき、社長個人が「会社が返せなければ自分が返す」と約束するもの。中小企業の融資では広く使われてきた。会社の債務とは別に、社長個人が銀行に対して負っている約束である。

なぜ、株主が変わっても外れないのか

理由は単純で、契約の当事者が違うからである。

  • 借入は、会社と銀行の契約
  • 連帯保証は、社長個人と銀行の契約
  • 株式譲渡は、売り手(オーナー)と買い手の契約

株式を譲渡すると、変わるのは会社の株主だけである。社長個人と銀行の間の約束は、どちらの当事者も入れ替わっていない。だから、そのまま残る。

譲渡契約の中で買い手が「保証は解除します」と約束したとしても、それは買い手がオーナーに対してした約束であり、銀行を縛るものではない。銀行の同意を取る作業が、別に必要になる。

ここが、第三者承継の実務でいちばん取りこぼされやすい一点である。株価の交渉、社員への説明、取引先への挨拶——決めることが多い時期に、保証の解除は「あとで事務的に処理されるもの」として扱われやすい。しかし事務ではなく、交渉である。

「契約に書いてある」と「外れた」は別のことである

マールオンラインの報道によると、M&A支援機関協会が9月30日に開いたメディア向け勉強会で、仲介した案件において成約後も売り手経営者の連帯保証が解除されていなかった問題が説明された。

報じられた内容のうち、オーナーが知っておくべきなのは次の点である。

  • 契約書では解除することを義務としていたにもかかわらず、現場の担当者がこれを努力義務として扱っていた
  • 成約後の確認に際して、担当者が売り手経営者に「連帯保証は外れた」と回答するよう促していた

事案に関与した元社員は解雇され、上長も処分されたと報じられている。業界としても、自主規制ルールの策定、不適切な買い手などの情報を会員間で共有する「特定事業者リスト」(利用企業133社)、苦情相談窓口といった整備が進んでいるという。

ここから引き出すべき教訓は、特定の会社の批判ではない。契約書の文言と、実際に外れたかどうかは別のことで、後者は自分で確かめられるということである。確かめるのは難しくない。確かめる習慣がないだけである。

外れたことを、どう確かめるか

やることは一つしかない。金融機関から、書面を取ることである。

仲介会社の担当者からの報告や、買い手の口頭の説明では足りない。報じられた事案が示しているのは、まさにその経路が機能しないことがあるという事実である。

確かめる手順は次のとおりである。

1. 借入ごとに確認する。 保証は、借入の本数だけ存在していることがある。メインバンクの分は外れたが、別の金融機関の分が残る、という形がいちばん多い。会社の借入一覧を手元に置き、1本ずつ消していく。

2. 書面の名称にこだわらない。 「保証債務の免除」「保証契約の解除合意書」など、呼び方は金融機関によって違う。求めるのは名称ではなく、自分の保証が外れたことが書面で分かるものである。窓口にはその言い方で頼めばよい。

3. 根保証は、既存分と将来分を分けて確認する。 限度額を決めて継続的な借入をまとめて保証する形(根保証)だと、「これから先の借入は保証しない」だけが処理されて、すでにある借入の保証が残ることがある。両方を確認する。

4. 担保は、保証とは別の手続きである。 自宅や土地を会社の借入の担保に入れている場合、保証が外れても担保は残ることがある。保証と担保は別の約束なので、別に外す必要がある。

5. クロージング後の借り替えを確認する。 買い手が譲渡後に借入を組み替えることはよくある。そのとき古い借入が返済されれば、紐づいた保証も終わる。終わったことを、やはり書面で確かめる。

譲渡契約に入れておく3つ

譲渡の交渉段階に戻ると、入れておくべきものは3つに絞られる。

1. 解除の位置づけを、努力ではなく条件にする。 いちばん強い形は、保証の解除をクロージング(代金の支払いと株式の引き渡し)の前提条件にすることである。それが難しい場合は、期限を切った義務にして、期限までに外れなかったときにどうするかを決めておく。たとえば代金の一部をその時点まで預かる形にしておけば、手続きが止まったままにはなりにくい。

2. 誰が金融機関と話すかを、先に決める。 銀行と交渉するのは、買い手なのか、オーナー自身なのか、両方で行くのか。ここが決まっていないと、互いに相手がやっていると思ったまま時間が過ぎる。実務としては、長年の関係があるオーナーが同席したほうが早く進むことが多い。

3. 外れた証憑を渡す義務を書く。 買い手側が金融機関と交渉する場合、解除が分かる書面の写しをオーナーに渡すことを契約に書いておく。報じられた事案で欠けていたのは、まさにこの確認の経路である。

平時にできることがある

保証の解除は、譲渡の話が始まってから交渉するより、その前の数年で有利にしておけるものである。

金融機関が保証を外しやすいのは、会社の信用が社長個人と切り離して評価できる会社である。具体的には、法人と個人の資産・経理がはっきり分かれていること、決算以外でも業績を説明できる状態になっていることが効く。経営者保証に関するガイドラインが求めているのも、おおむねこの方向である。

制度の側も動いている。前述の報道では、2026年5月に施行された「企業価値担保権」について、不動産担保や個人保証に過度に依存せず、企業の収益性やブランドなど企業そのものの価値に着目した融資を後押しする制度だと説明されている。買収資金の調達手段が広がる方向の話でもある。

※企業価値担保権とは: 土地や建物といった個別の資産ではなく、事業そのものが生み出す収益力を担保として扱える仕組み。不動産を多く持たない会社でも、事業の収益力を裏づけに資金を調達しやすくなる方向の制度である。

また同じ報道では、2028年1月からの適用を念頭に非上場株式の評価方法の見直しが検討されており、評価額が上がれば相続税の負担が増える、という論点も語られている。税制は改正が続く領域なので、自社に当てはめた判断は顧問税理士と金融機関に確認していただきたい。ここで言えるのは、保証と税は譲渡の直前に片付く話ではないということである。

どの道を選んでも、保証の論点は出てくる

事業承継の道は、親族への承継、従業員への承継、第三者への承継の三つに分けて語られる。報道では、2024年の休廃業・解散が過去最多の約6万9,000件に上ったことが、承継問題の深刻さを示す数字として挙げられていた。

保証の論点は、どの道でも出てくる。むしろ従業員承継のほうが重いことが多い。株を引き継ぐ後継者が、同時に個人保証も引き受けることになるからである。長年会社を支えてきた社員が、自宅を担保に入れる決断まではできない——これは珍しい話ではなく、社員への承継が進まない実務的な理由の一つである。

第三者への承継を選ぶ場合、買い手の信用力で保証を外せる可能性が開ける。それは「会社を手放す」ことではなく、会社を残すために、個人が背負っていたものを会社の信用に移すことでもある。

承継の時期の考え方は後継者探しのベストなタイミングとは?外部招聘を成功に導く「5年逆算」の法則に、親族内承継が難しいと感じた段階の整理は親族内承継が「難しい」と感じたらに書いている。

会社を残す道として、外部から経営を担う人を迎える選択肢もある。当社はPEファンド投資先や事業承継など、公開されない経営ポジションを扱っている。考えはじめた段階での整理であれば、後継者をお探しの方へをご覧いただきたい。