外から後継者の候補に会ったとき、経歴書で分かるのは「その人が何をしてきたか」までです。その人が自分の会社の社長の席で持つかどうかは、経歴書には書かれていません。
書かれていないのは、大きく3つです。仕組みのない場所で決めた経験があるか。人が辞めると言ってきたときに何をしたか。数字が計画を割ったときに、自分が何をしたか。この3つは、会社の規模や肩書きとほとんど関係がありません。
この記事では、その3つをオーナー自身が面談で確かめる質問と、会議室では見えないものをどう見るかを書きます。難しい手法は使いません。社長が自分の言葉で聞ける形にしてあります。
経歴が立派な人ほど外しやすい理由
大企業の役員や事業部長を長く務めた人は、判断の訓練を受けています。数字を読み、人を見て、優先順位を決めることに慣れています。能力の話をすれば、申し分ない方が多いのが実際です。
それでも中小企業の社長の席でつまずくことがあるのは、能力が足りないからではありません。仕事の種類が変わるからです。
大きな会社では、判断の材料が自動的に揃います。経理が毎月数字を上げてくる。人事が候補者を連れてくる。法務が契約を見る。稟議の型があり、どこまでが自分の決裁かも決まっています。役員の仕事は、揃った材料を見て決めることです。
中小企業の社長の席には、この仕組みが揃っていません。数字は自分で取りに行く。人は自分で探す。契約は自分で読む。つまり、決めるより前に、決めるための材料を自分で作る仕事が大きな割合を占めます。
だから経歴書は「判断の質」の証明にはなりますが、「材料がないところで決めた経験」の証明にはなりません。見極めるべきはこの一点です。
経歴に書かれない3つ
1. 仕組みのない場所で決めたことがあるか
同じ役員経験でも、整った本社で意思決定していた人と、海外の小さな拠点を一人で立ち上げた人、赤字の子会社に送り込まれて立て直した人では、持っているものが違います。
後者には共通して、**「無いものを自分で作った話」**があります。管理の表を自分で作った、取引先の与信の見方を自分で決めた、採用の基準を自分で書いた。規模は小さくてかまいません。無いところで作った経験があるかどうかです。
2. 人が辞めると言ってきたときに、何をしたか
承継でいちばん神経を使うのは、長く会社を支えてきた幹部や職人との関係です。社長が代わるとき、この人たちが残ってくれるかどうかで、その後の数年が変わります。
候補者の過去に、必ず「人が辞めると言ってきた場面」があります。そのとき引き止めたのか、送り出したのか、引き継ぎをどう設計したのか。ここに、その人が組織を何だと思っているかが出ます。 一人も辞めさせたことがないと答える人は、人を動かす立場にいなかった可能性があります。
3. 数字が計画を割ったときに、自分が何をしたか
落ちた数字を「あの部門の問題でした」と説明する人と、「自分が現場に入って3カ月見ました」と話す人がいます。どちらも大企業では成立します。
中小企業の社長の席で持つのは後者だけです。 自分の下に、代わりに現場へ入ってくれる層がいないからです。
面談で聞く5つの質問
「どんな経営をしたいですか」のような抽象的な問いは、答えが上手な人に有利に働くだけです。事実を聞きます。
- 「いまの会社で、ご自身の決裁でいくらまで動かせましたか」 — 金額が即答で出るかどうかで、本当に権限を持っていたかが分かります
- 「会社に仕組みが無くて、自分で作ったものを1つ教えてください」 — 作ったものの大きさは問いません。作った経験があるかを見ます
- 「引き止めた人と、送り出した人の話を聞かせてください」 — 両方の話が出てくる人は、人の出入りを自分の仕事として扱ってきた人です
- 「数字が計画を割ったとき、最初の1週間で何をしましたか」 — 会議を開いた話で終わるか、自分が動いた話が出るか
- 「この会社の、いま一番危ないところはどこだと思いますか」 — 会社の資料をお渡ししたあと、2回目以降の面談で聞きます
5つ目には使い方があります。答えが正しいかを採点するためではありません。その答えが、オーナー自身が分かっていることと同じ場所を指しているかを確かめるためです。
売上が数社に集中している、職人の年齢が上がっている、設備の更新が遅れている——社長が一番気にしていることを、候補者も見ているか。ここがずれている場合、能力の問題ではなく、見ている場所が違います。会社を渡したあと、話が噛み合わなくなるのはこの差からです。
1回の面談で決めない。会社を歩かせる
会議室での面談では、候補者はオーナーに向けて話します。現場に連れて行くと、社員に向けて話します。この2つが別人のようになる方がいます。
やることは2つで足ります。
- 工場や店舗、現場を一緒に回る。候補者が誰に話しかけ、何を質問するかを見る
- 古参の幹部と15分だけ話をさせる。幹部に評価させるためではなく、候補者がその人の話をどう聞くかを見るためです
長く会社を支えてきた人の話を、自分の経験で遮る人は、承継後に同じことをします。
前の会社の人に聞くなら、部下と取引先に聞く
候補者の了解を得て、前の職場の関係者に話を聞くことができます(レファレンス、照会)。このとき聞く相手を上司にすると、評価の言葉しか返ってきません。
聞く相手は、その人の部下だった方と、取引先です。質問は1つで足ります。
「あの方が辞めたあと、何が元に戻りましたか」
その人が作ったものが残ったのか、人が離れたらすぐ元に戻ったのか。ここで、実際に何を作った人なのかが分かります。
見極めは、渡す側の準備と対になっている
ここまでは候補者を見る話ですが、同じだけ、渡す席の側を決めておく必要があります。 決裁の最終ラインが誰にあるのか、人事をどこまで動かせるのか、いつまでの約束なのか。ここが空白のままだと、良い候補者ほど受けません。その3つは社長の後継者は、選ぶ前に「引き受けられる席」にするに書きました。
探し始める時期の考え方は後継者探しのベストなタイミング、親族への承継が難しいと感じた場合の選択肢は親族内承継が「難しい」と感じたらで扱っています。
まとめ
- 経歴書で分かるのは「何をしてきたか」まで。社長の席で持つかは書かれていない
- 見るのは、仕組みのない場所で作った経験・人が辞めるときの振る舞い・数字が落ちたときに自分が動いたか
- 面談では抽象的な志を聞かず、金額・作ったもの・人の出入り・最初の1週間を聞く
- 会社の資料を渡したあと、「一番危ないところ」を聞いて、見ている場所が同じかを確かめる
- 会議室だけで決めない。現場を歩かせ、古参の幹部の話をどう聞くかを見る
- 前職に照会するなら、部下と取引先に「辞めたあと何が元に戻ったか」を聞く
会社を残すための後継者探しについては、後継者をお探しの方へにまとめています。当社は、表には出ない経営者のポジションを扱っています。
