後継者を決めても、株式が揃っていなければ、会社は渡せません。
社長の席は株主総会で決まります。だから、株が親族や元役員、昔の取引先に散っている会社では、後継者を「決めた」ところで話が止まります。本人のやる気や能力とは関係のない場所で止まるので、気づくのが遅れがちです。
この記事は、株がどこにどれだけあるかを確かめ、承継の話を始める前に集約を終わらせるための順番です。
まず、何%で何が決まるのかを押さえる
ここだけは数字で覚えておく価値があります。会社法の決まりです。
| 持っている割合 | できること |
|---|---|
| 3分の2超 | 定款の変更、株式の併合、会社の合併・解散など(特別決議) |
| 過半数 | 取締役の選任・解任、配当など、ふだんの決定(普通決議) |
| 3分の1超 | 特別決議を止められる(賛成しなければ通らない) |
| 3%以上 | 会社の帳簿を見せるよう求められる/株主総会の招集を求められる |
| 1%以上 | 株主総会に議案を出せる |
※普通決議と特別決議とは: 株主総会での決め方の種類です。ふだんの決定は「普通決議」で、出席した株主の議決権の過半数で決まります。会社の形を変えるような重い決定は「特別決議」で、出席した株主の議決権の3分の2以上が必要になります。どちらも、まず議決権の過半数を持つ株主が出席していることが前提です。
大事なのは3分の1超の行です。ここを他の人が持っていると、過半数を持っていても、会社の形を変える決定が通りません。「過半数あるから大丈夫」は、承継の局面では成り立ちません。
なぜ、株は散るのか
散らすつもりで散らした会社はほとんどありません。たいていは、次のどれかが積み重なっています。
- 設立のときに名義を借りた。 1990年の商法改正まで、株式会社をつくるには発起人が7人以上必要でした。親戚や友人に名前だけ借りた会社が多く、その株がそのまま残っています
- 相続で分かれた。 先代が亡くなったとき、株が兄弟姉妹で分割された。経営に関わっていない人の手に、議決権が残ります
- 関係が良かった時期に渡した。 功労のあった役員や社員に、感謝のかたちとして持ってもらった
- 増資のときに引き受けてもらった。 取引先や金融機関に出してもらった分が、関係が薄くなった今も残っている
いずれも、渡した時点では何の問題もありませんでした。問題になるのは、会社の形を変える決定が必要になったときだけです。 承継はまさにその場面です。
散っていると、承継の何が止まるのか
具体的に止まるのは、この4つです。
1. 後継者を取締役にできない
外から後継経営者を招いても、社内の幹部を上げても、取締役にするのは株主総会の決議です。過半数が揃っていなければ、人は決まっても席に座らせられません。
2. 退職金や役員報酬の整理ができない
先代の退任にあたって役員退職金を出す、報酬の体系を変える、といった決定にも株主の同意が要ります。金額が大きいほど、少数株主から説明を求められやすくなります。
3. 定款を変えられない
株式の譲渡に会社の承認を要する形にする、役員の員数を変える、種類株を使う。こうした資本の整え方はすべて3分の2超が必要です。3分の1超を他の人が持っていると、何も動かせません。
4. 第三者に譲って会社を残す道が狭くなる
会社を引き受ける相手は、ふつう株式の全部を求めます。1人でも応じない株主がいると、話が止まるか、条件が下がります。選べる相手が減るというのが、いちばん実害の出るところです。
集約は、承継の話を公にする前にやる
順番の話です。先に株を集め、それから後継者の話を進めます。 逆にすると難しくなります。
承継が動いていると分かった時点で、株の値段が話題になります。「いま持っている1株は、いくらになるのか」を誰もが考えはじめます。買い取りの交渉としては、いちばん不利な時期です。
もうひとつ、時間がかかるという理由があります。相手を探し、事情を聞き、値段の考え方を揃えるまでに、数年かかることも普通です。後継者探しは5年を逆算して始めると書いたのと同じ理由で、株の集約も早いほど選択肢が多く残ります。
誰から、どの順に集めるか
全員に同時に声をかけるのは、いい方法ではありません。順番があります。
- 現状を紙に確定させる。 株主名簿、過去の増資の記録、相続の経緯。名簿上の持ち主と、実際に権利を持っている人がずれている会社は珍しくありません。亡くなった方の名義のままなら、相続人が誰かまで調べます
- 3分の1超を単独または合算で持つ人。 ここが最優先です。拒否権を持っている相手との交渉が、いちばん時間がかかります
- 連絡が取れない株主。 所在が分からない株主は、交渉すらできません。手を打つには制度を使うことになるので、早めに着手します
- 関係が薄くなっている少数の株主。 ここは比較的進みやすいところです。まとめて声をかけるより、1人ずつ事情を聞きます
値段の考え方を先に自分の中で決めておくことも大事です。相手ごとに違う計算をすると、後から必ず揉めます。
集めるための手段と、気をつける点
やり方は主に4つです。どれを選ぶかで、必要なお金の出どころと税の扱いが変わります。
- 直接買い取る(相対取引)。 社長個人、後継者、または持株会社が買います。いちばん素直な方法ですが、買う側に資金が必要です
- 会社が買い取る(自己株式の取得)。 会社のお金で買えますが、分配可能額の範囲でしか買えません。利益の蓄えが薄い会社では使えないことがあります
- 定款の「相続人等に対する売渡請求」を使う。 株を相続した人に、会社へ売るよう請求できる定めです。定款に書いてなければ使えません。また、相続があったことを知った日から1年以内という期限があります。自社の定款に入っているか、いま確認する価値があります
- 連絡の取れない株主の整理。 一定期間にわたって通知が届かず配当も受け取っていない株主の株式は、法律の手続きで売却できます。会社法では5年ですが、事業承継の場面ではこの期間を短くできる特例も用意されています。要件があるので、専門家に確認してください
※分配可能額とは: 会社が配当や自己株式の取得に使っていい金額の上限です。利益の蓄え(剰余金)をもとに計算します。会社に現金があっても、この上限を超えて買うことはできません。
税の扱いは手段ごとに変わります。 特に会社が買い取る場合、売った株主の側で配当として扱われて税率が変わることがあります。株価の考え方も含めて、税理士と並走してください。この順番を間違えると相続税の対策が会社を弱らせるのと同じことが起きます。
外から後継者を招くなら、ここは先に片づける
親族にも社員にも継ぐ人がいないとき、外から経営者を招いて会社を残す道があります。このとき、株が割れている状態は特に重く響きます。
理由は単純です。自分を選んだ人と、自分を切れる人が別だと、経営の決定ができません。 外から来る経営者は、就任前に株主構成を必ず見ます。3分の1超を持つ株主が別にいる会社では、「何かを変えようとすると止まる」と読めるので、話が前に進みません。
逆に言えば、株が揃っている会社には、人を連れてこられます。 席が整っているかどうかの話で、会社の規模や業績の前の段階です。後継者の席にある3つの空白も、同じところを指しています。
当社はPEファンド投資先や事業承継など、非公開の経営ポジションを扱っています。株主構成を整えながら外から経営者を招く進め方については、後継者をお探しの方へをご覧ください。
まとめ
- 後継者を決めても、株が揃っていなければ渡せない
- 覚えるのは3つ。3分の2超で会社の形を変えられる、過半数で役員を決められる、3分の1超で止められる
- 散る原因は、設立時の名義借り・相続・功労での譲渡・増資。渡した時点では問題がなかったものばかり
- 集約は承継の話を公にする前に始める。動いていると分かると値段が話題になる
- 順番は、現状の確定 → 3分の1超を持つ人 → 連絡が取れない人 → 関係の薄い少数株主
- 手段は4つ。定款に「相続人等への売渡請求」があるかは、今日確認できる
- 外から経営者を招くなら、株主構成は就任前に必ず見られる
