CEOの案件に関心を持って動き出すと、多くの人が同じところで戸惑う。書類選考、一次面接、最終面接という進み方をしない。 「面談」と呼ばれる場が何度も続き、いつ選考が始まったのかも、いま何次なのかもわからないまま時間が過ぎる。

理由は単純で、決める人が一人ではないからだ。 資本の出し手、取締役会やオーナー、そして受け入れる側の経営陣。この三者が別々の基準で見ていて、全員分の納得が要る。だからこれは選考ではなく合意形成であり、合意形成には選考の形が使えない。

部長採用とは、決裁の構造そのものが違う

部長職までの採用は、人事が要件を定義し、受け入れる事業部長が判断する。実質的な決裁者は一人か二人で、要件は先に固定できる。だから求人票が書けるし、選考プロセスも設計できる。

CEOはこの前提が崩れる。会社の代表を誰にするかは、株主と取締役会の権限であって、人事部門の権限ではない。人事が窓口を務めることはあっても、決めているのは別の場所にいる。要件を決める権限と、候補者に会う人と、最後に判断する人が、そもそも一致していない。

この構造が、採用の見え方をすべて説明する。

三者は、それぞれ違うものを見ている

資本の出し手――PEファンド、親会社、オーナー株主――が見ているのは、投資仮説を実行できるかどうかである。何年で何を作り、どこに渡すのかという算段があり、その時間軸に合う人かを見る。ここでの言語は数字と期限になる。

取締役会やオーナーが見ているのは、任せて大丈夫かという一点である。ガバナンスの枠組みに乗る人か。金融機関や主要取引先、既存株主に対して、この人選を説明できるか。判断の軸は成果よりも、説明可能性と信頼に寄っている。

受け入れる経営陣・幹部層が見ているのは、この人の下で働けるかである。ここが最も見落とされる。新しい代表が来ることで、幹部が離れる可能性は現実にある。幹部が抜ければ、投資仮説そのものが崩れる。 だから資本の出し手も、この層の反応を無視できない。

重要なのは、三者の基準が同じ方向を向いていないことだ。数字を作れる人が現場に受け入れられるとは限らないし、現場に好かれる人が投資家の時間軸に合うとも限らない。「全員が高く評価する」ではなく「誰も強く反対しない」が、実際の通過条件になる。

この非対称は、候補者にとって不利にばかり働くわけではない。三者のうち一者が強く推せば、話は前に進む。ただし推す側は、他の二者に対して自分の信用を賭けることになる。推薦とは、推す人がリスクを取る行為である。 だから候補者が用意すべきなのは、自分を評価してもらう材料ではなく、推す人が他の二者を説得するための材料になる。この視点の転換が、実務上いちばん効く。

だから、進み方がこうなる

三者の合意で決まると理解すると、不可解に見えた進み方が全部つながる。

求人票が薄い、あるいは出てこない。 要件を先に固定できないからだ。候補者に会いながら三者の間で像が動く。書けるのは会社の状況までで、人物要件は最後に決まる。

レファレンスが早い段階で走る。 書類は本人が書いたものなので、三者を納得させる材料になりにくい。実際に一緒に働いた人の言葉のほうが強い。だから面接の前や途中で、すでに周辺への確認が始まっていることがある。

「面接」ではなく「面談」と呼ばれる。 一方が評価する場ではなく、双方が説明し合う場だからだ。候補者側も、会社の状態や株主の意図を確認する権利がある。実際、ここで候補者から辞退が出ることも珍しくない。

期間が長く、途中で止まったように見える。 三者のスケジュールが揃わないだけのことも多い。連絡が途絶えても終わっていない場合があるのは、この理由による。

動くために準備するもの

構造がわかれば、準備の中身も変わる。

職務経歴書に、制約条件を書く。 「売上を1.5倍にした」だけでは、三者の誰も判断できない。どういう資本構成で、どんな制約の下で、何を選び、何を捨てたのか。制約を書くと再現性が伝わる。CEOの選考で問われているのは実績の大きさより、判断の型である。

レファレンスに立つ人を、自分で把握しておく。 前職の上司、株主、社外取締役、あるいは一緒に苦しい局面を通った幹部。誰が何を語るかを想像できていない状態で選考に入るのは、材料を相手任せにするのと同じである。

いま会っているのが三者のどれかを見立てる。 相手が資本の人なら、時間軸と数字の約束を語る。ガバナンスの人なら、説明可能性と誠実さを見せる。現場の人なら、既存の経営陣をどう扱うつもりかを話す。同じ実績でも、相手によって語るべき面が違う。

断られた理由を、能力の問題と受け取りすぎない。 三者のどこかで合意が取れなかっただけ、ということが実際に起きる。次の案件では別の三者が並ぶので、結論も変わる。同じ経歴で落ちた人が、半年後に別の案件で決まるのは、この構造なら不思議ではない。

合意は、たいてい同じ場所で崩れる

進んでいた話が止まるとき、原因は候補者の外にあることが多い。株主構成が動くと、投資仮説そのものが引き直され、必要な人物像が変わる。現経営陣の去就が固まらないと、誰の下に誰を置くかが決められず、代表の要件も決まらない。業績が想定から外れると、成長を託す人選から立て直しを託す人選へ、論点が入れ替わる。

いずれも候補者には見えないところで起きる。だから、進行が止まったときに自分の何が悪かったのかを詰めても、答えは出ない。確認すべきは自分の評価ではなく、会社側で何が動いたかである。それを聞ける相手を経路の中に持っているかどうかが、実際の差になる。

探すことより、思い浮かべられること

もうひとつ、構造から出てくる結論がある。CEOの案件は、要件が固まる前に人の名前が挙がる。 株主やヘッドハンターの頭の中に、先に顔がある状態から話が始まることが多い。

だとすれば、求人を探し続ける行為の費用対効果は高くない。効くのは、名前が挙がる状態を作っておくことである。実績を語れる状態にしておくこと、信頼できる経路に自分の関心を伝えておくこと、そして案件が動き出したときにすぐ会えることだ。

なお、この経路は投資先でも事業承継でも変わらない。入口はどちらもヘッドハンター経由であり、公募として世に出る前に候補者の名前が並ぶという点では同じ構造である。誰が案件を出しているかによる違いは、CEO求人は、出し手が誰かで別物になるで整理している。

当社は、PEファンドの投資先や事業承継など、公開されていない経営ポジションを扱っている。いますぐ動くつもりがなくても構わないので、条件が合う案件が出たときに声がかかる状態を作っておきたい方は、経営者・CxOのキャリア相談から連絡してほしい。