「社長の平均年収」を調べると、1,000万円台という数字と、数千万円台という数字の両方が出てくる。どちらも間違っていない。 調査の母集団が違うからでもない。

理由は、社長には「報酬として受け取る人」と「株主として受け取る人」がいて、その二つが平均という一つの数字に混ぜられているからだ。オーナー社長にとって役員報酬は取り分の一部でしかなく、雇われ社長にとっては取り分のほぼ全部になる。同じ「社長」という肩書きで、お金の出口がまったく違う。

だから平均値を見ても、自分がいくらもらえるかはわからない。先に決まるのは金額ではなく、どちらの構造で受け取るかのほうである。

社長に入るお金は、性質の違う3つに分かれる

まず、混ざっているものを分けておく。

1. 役員報酬(定期同額給与)。 毎月同額で支払われる固定の報酬。これが一般に「年収」として集計される部分にあたる。

2. 賞与・株式報酬。 業績に連動する短期のインセンティブ(STI)と、株式やストックオプションによる長期のインセンティブ(LTI)。上場企業では報酬総額に占める比率が規模とともに上がる。

3. 株主としての取り分。 配当と、持株を売却したときの譲渡益。加えて、退任時の役員退職慰労金。これは「年収」の統計にほぼ入らない。

給与所得の統計は1と2の一部しか拾えない。3は所得の種類がそもそも違う(配当所得・譲渡所得)ので、給与の調査には現れようがない。オーナー社長の取り分の大半が、統計の外側にある。

中小企業の社長の「年収」は、市場価値ではなく税務の結果

ここが最も誤解されるところだ。非上場のオーナー企業で社長の報酬が1,000万円台に見えるとき、それは「その経営者の価値が1,000万円」という意味ではない。

法人税法上、役員報酬を損金に算入するには原則として定期同額給与——期首から3か月以内に決めた金額を、その事業年度のあいだ毎月同額で払い続ける——である必要がある。つまり期の途中で業績が伸びても、報酬を上げて調整することができない。 例外的に事前確定届出給与や業績連動給与の枠組みはあるが、非上場の中小企業が使いやすい制度ではない。

結果、オーナー社長は期初に「安全側の金額」を置く。読み違えて高く設定すれば、業績が落ちたときに会社の資金繰りを圧迫し、下げれば損金算入が崩れる。上げにくく下げにくいのだから、低めに置くのが合理的になる。

そして残った利益は、会社に内部留保するか、配当として株主=自分に回すか、将来の役員退職慰労金や株式売却の原資として置いておく。報酬を低くすること自体が設計であり、取り分が少ないことを意味しない。

だから「非上場の社長の平均年収」という数字は、経営者の市場価値の指標としては読めない。読めるのは、その層が報酬以外の出口を持っているという事実のほうである。

雇われ社長の側では、金額を決めているのは会社の規模ではない

一方、株式を持たずに社長を務める場合、取り分は1と2にほぼ限られる。ここでは規模との相関がはっきり出る。売上規模別の水準と、規模が上がるほど固定給の比率が下がる構造については、代表取締役の年収は売上規模でどう変わるかで公開データを整理している。

ただし、同じ規模でも報酬の作られ方は資本構造によって変わる。 実務上、大きく三つに分かれる。

上場企業の内部昇格。 報酬は指名・報酬委員会が決め、同業他社との横並び(ベンチマーク)に強く縛られる。開示義務があるため、突出した金額をつけにくい。金額の予測可能性は最も高いが、天井も低い。

PEファンドの投資先。 ベース報酬は前職と同水準か、下がることさえある。差が出るのは株式の部分で、投資期間の終わりにどうなるかで最終的な受取額が何倍にも動く。「年収」を聞いても意味がなく、聞くべきはエクイティの条件になる。

オーナー企業に招かれる社長。 決めるのはオーナー個人であり、委員会も横並びもない。だから交渉の余地が最も大きく、同時に根拠が属人的なので、後から動く可能性も最も大きい。

いずれの場合も、金額を決めているのは会社の規模というより、誰が任免権を握っているかである。任免権を持つ主体が変われば、報酬の決まり方も、その約束がどれだけ堅いかも変わる。この点は社長の転職で見られているのは肩書きではないで、経験の評価という角度から詳しく書いた。

平均値の代わりに、確かめるべき3つ

自分の水準を知りたいなら、平均年収を調べるより、提示された条件について次の三つを確かめるほうが早い。

固定と変動の比率。 提示総額が同じでも、固定8割と固定4割ではまったく別の話になる。変動部分は「目標を達成すれば」という条件付きであり、その目標を誰がいつ決めるのかまで確認しないと、額面は意味を持たない。

株式の有無と、それが現金になる条件。 株式報酬やストックオプションが乗っている場合、実現するのは上場やイグジットといった特定の事象が起きたときだけである。起きなければゼロになる。 何が起きれば実現するのか、そのとき自分が在籍している必要があるのかを、文書で確認する。

途中で終わったときの扱い。 社長の任期は、業績以外の理由でも終わる。株主が変わる、方針が変わる、というだけで終わることがある。そのときに固定報酬と変動報酬と株式がそれぞれどうなるかが、実は総額よりも受取額を左右する。

この三つを押さえると、額面の大小より先に「この条件はどういう構造でできているか」が見える。構造が読めれば、交渉すべき箇所も一つに絞れる。

平均を調べる段階から、条件を読む段階へ

「社長の平均年収」という問いは、入口としては自然だが、答えを出せる形になっていない。受け取り方が二つに割れているものを平均しても、どちらの実態も表さないからだ。

自分がどちらの構造で受け取るのかが決まれば、見るべき数字も、交渉すべき条件も変わる。株主として受け取るなら出口の設計を、報酬として受け取るなら変動部分の条件を見る。 それが平均値より先に来る。

当社はPEファンドの投資先や事業承継など、公開されていない経営ポジションを扱っている。こうしたポジションでは報酬条件が個別に組まれるため、相場という考え方そのものが当てはまらないことが多い。経営者としてのキャリアをお考えの方へで、扱っているポジションの性質を説明している。