CXOの年収を調べると、同じ肩書きなのに水準がまるで揃いません。原因は会社の規模差でも、職種の違いでもありません。CXOの報酬は「その席に委ねられた意思決定の範囲」と「その決定を任せられる人が何人いるか」の掛け算で決まります。

だから、CFOかCOOかという職種の比較にはあまり意味がなく、名刺に同じ肩書きが書かれた二人の間で報酬が大きく開くことが起こります。ここを理解すると、提示された年収がなぜその水準なのかが読めるようになります。

「CXO」は職位の名前ではなく、意思決定の預かり方の名前

日本の会社で使われているCXOという呼称には、実態が二種類混ざっています。

ひとつは、部門長や執行役員にCXOという名称を付けたものです。担当領域の業務執行に責任を持ちますが、投資や撤退といった後戻りできない決定は、社長か親会社か株主が握っています。

もうひとつは、資本の意思決定に関与する立場としてのCXOです。取締役会や株主との対話の場に座り、事業をどう組み替えるか、何をやめるか、どこに資金を入れるかの判断に加わります。

この二つは、名刺の上では区別が付きません。しかし報酬の決まり方はまったく別です。前者は社内の給与テーブルの延長線上で決まり、後者は「その判断を誤ったときに失われる金額」を基準に決まります。年収を調べるときにこの二つを混ぜて平均すると、意味のない数字が出てきます。

報酬を動かしている2つの変数

1つめは、決定範囲です。 何を単独で決められるかではなく、後戻りできない決定にどこまで責任を負うかで測ります。部門のP/L(損益)を預かっているのか、それとも会社のB/S(資産と資本の構成)を動かせるのか。この境界を越えると報酬の水準が変わります。事業をひとつ畳む、工場を止める、借入の条件を組み替える。こうした決定は取り返しがつかないぶん、引き受ける人に対価が付きます。

2つめは、代替可能性です。 同じ決定を任せられる人が、社内と市場に何人いるか。ここが報酬の上振れを作ります。

重要なのは、この希少性が職種そのものからは生まれないことです。CFOは世の中に大勢います。しかし「規制産業の原価構造を理解していて、かつ金融機関との交渉ができるCFO」となると、候補は急に少なくなります。希少性は肩書きではなく、産業特有の制約と経営機能の組み合わせから生まれます。

この2つは掛け算です。決定範囲が広くても代替が効く人であれば報酬は上がりにくく、逆に範囲が限定的でも代替が効かなければ、その領域では高い水準が付きます。

職種ごとの差は「序列」ではなく「局面」で入れ替わる

CEO、COO、CFO、CHRO、CSOの間には、確かに報酬の傾向差があります。ただし、それを職種の価値の序列として理解すると読み違えます。差の正体は、資本の意思決定からの距離と、その局面でどれだけリスクを引き受けているかです。

たとえば通常の運営期であれば、資本に近い職種の報酬が高く出ます。しかし、買収した会社を統合する局面では話が変わります。PMIで統合が失敗する原因の多くは、財務の計算違いではなく、人と組織が動かないことです。

※PMIとは: 合併・買収の後に、二つの会社の組織・制度・システムを統合していく作業のことです。買収の成否は契約が締結された時点ではなく、この統合が機能するかどうかで決まると言われます。

この局面では、人事の責任者が背負うリスクが一時的に跳ね上がります。統合の成否を左右する席になるからです。つまり職種による差は固定されたものではなく、会社がいまどの局面にいるかで入れ替わります。自分の職種の平均年収を見るより、自分の職種が主役になる局面を選ぶほうが、報酬に対する影響は大きくなります。

「提示年収」は3つに分解してから比べる

CXOの報酬は、性質の違う3つが合算されて一つの数字として提示されます。比較するときは、必ず分解してください。

固定報酬は、毎月確実に入る部分です。短期インセンティブ(STI)は、単年度の業績に連動する賞与です。長期インセンティブ(LTI)は、株式やストックオプションなど、数年後の企業価値に連動する部分です。

※STIとLTIとは: STIは単年度の業績に応じて支払われる賞与、LTIは数年単位の企業価値向上に連動する株式報酬を指します。同じ「年収2,000万円」でも、全額が固定報酬の会社と、固定1,200万円+LTI相当800万円の会社では、受け取れる時期も確実性もまったく違います。

固定報酬の比率が高いほうが安全だという単純な話ではありません。固定に寄った提示は、会社がその席に大きな上振れを期待していない、という意味でもあります。逆にLTIの比率が高い提示は、上振れの余地がある代わりに、条件が満たされなければ実現しません。どちらが良いかは、自分がその会社の資本の予定を信じられるかで決まります。

より詳しい株式報酬の設計基準については、役員報酬ランキングから読み解くCXOの市場相場で扱っています。

自分の水準を動かす方向は、2つしかない

決定範囲と代替可能性の掛け算で決まる以上、報酬を動かす方向も2つに限られます。

決定範囲を広げる。 部門の数字を預かる立場から、会社全体の資本構成に関わる立場へ移ることです。事業の売却や撤退、資金調達の意思決定に関与した経験は、次の会社で「後戻りできない決定を経験している人」として評価されます。担当領域が大きくなることと、決定の重さが変わることは別物です。

代替可能性を下げる。 経営機能に、産業特有の制約を掛け合わせることです。参入規制、設備投資の回収期間、労働集約性、商習慣。こうした制約は外から来た人にはすぐには扱えないため、その産業で経営を回した経験は代替が効きにくくなります。

どちらも、いまの会社で肩書きが上がるのを待っていて起こる変化ではありません。当社は、PEファンドの投資先や事業承継の局面など、公募されない経営ポジションを扱っています。こうしたポジションは、まさに「後戻りできない決定を任せられる人」を探している場です。自分の決定範囲を次にどこへ広げるかを考えている方は、経営者としてのキャリアもご覧ください。

CXOの年収に相場表はありません。あるのは、預かる決定の重さと、その決定を代われる人の数だけです。この2つを自分の言葉で説明できるようになると、提示された数字が高いのか安いのかを、他人の平均値に頼らずに判断できるようになります。