「CFOのキャリアパス」を調べると、経理部長から財務部長、CFO、そしてCEOへ、という階段の図が出てくる。実際のCFOのキャリアは、階段ではなく分岐でできている。

理由は、CFOの仕事の中身が役職名ではなく、その会社が誰から資本を預かっているかで決まるからだ。銀行と向き合うCFO、株式市場と向き合うCFO、ファンドの投資委員会と向き合うCFO、オーナー個人と向き合うCFO。同じ肩書きでも、日々やっていることも、身につくものも違う。だから次に行ける方向も違ってくる。

そして厄介なのは、その分岐が「昇進したとき」ではなく「会社の資本が動いたとき」に訪れることである。自分でタイミングを選べない。

なぜ階段の図が実態と合わないのか

階段の図は、一つの会社の中の序列を描いたものだ。序列は会社の中では正しい。しかし転職市場が見ているのは序列ではなく、この人は誰に対して数字を説明してきたかである。

借入が中心の会社のCFOは、銀行に対して返済能力を説明してきた。関心の中心はキャッシュフローと担保余力にあり、思考は「約束を守れるか」に寄る。

上場企業のCFOは、株式市場に対して成長のストーリーを説明してきた。開示のルールに縛られ、四半期ごとに説明責任が来る。思考は「どう伝えるか」を強く含む。

PEファンドの投資先のCFOは、投資委員会に対して価値創造の進捗を説明してきた。見られるのは会計上の利益よりEBITDAとその改善幅であり、投資期間という締め切りがある。思考は「期限内に何をどこまで動かすか」になる。

オーナー企業のCFOは、オーナー個人に説明してきた。ルールは明文化されておらず、決裁は関係性の上で動く。

この四つは、上下関係ではなく別種の経験である。 階段の図が実態と合わないのは、上下でないものを上下に並べているからだ。

分岐1:管理部門の統括に広がると、財務のキャリアは止まりやすい

CFOに人事・総務・法務・情報システムまで集約し、「管理本部長」として扱う会社は多い。組織上は明確な昇格であり、部下も予算も増える。

ところがこの方向に広がるほど、資本の出し手と向き合う時間は減る。 管理部門の統括者の一日は、社内の調整と制度運用で埋まっていく。資本政策、資金調達、投資家との対話といった、外の資本と向き合う仕事の比重が下がる。

戻りにくくなるのは、経歴書の見え方が変わるからだ。CFOの職務経歴で外から評価されるのは、直近数年で自分の名前で関与した資本取引である。調達、資本再編、M&Aの資金手当て、上場準備。管理統括に数年いると、この欄が古くなる。資本市場は動き続けているので、経験は年を取る。

肩書きは上がったのに、市場での評価が動かない、あるいは下がる。これが起きるのがこの分岐である。

分岐2:IPOを一度やると、「IPO CFO」という札がつく

上場準備を経験したCFOには、確実に需要がある。理由は明快で、上場準備は数少ない「再現性のある実績」だからだ。監査法人と証券会社の審査を通し、内部統制と開示体制を作った、という事実は、外から検証できる。CFOの仕事の多くが検証しにくい中で、これは例外的にわかりやすい。

だからこそ札が強くつく。次のオファーも上場準備の会社から来る。それ自体は悪いことではないが、この道が向かう先は限られる。

上場準備で求められるのは、無いものを作ることだ。規程を作り、体制を作り、審査に耐える状態を作る。一方、上場後の成長企業やPEファンドの投資先のCFOに求められるのは、すでにある事業を動かして数字を変えることである。管理体制の構築と、価値創造の運転は、必要な筋肉が違う。

このラベルから抜ける方法は一つしかない。上場した後にその会社で何をしたかを、一つ作ることだ。 上場を花道にして次へ移ると、経歴は「上場準備の人」で固定される。この分岐と、PE・IPOそれぞれの道の違いについては、CFOの「転職」は企業価値の再定義から始まるでも触れている。

分岐3:大企業の中で昇格したCFOは、外の市場で読み替えられる

大企業でCFOまで昇格した人が、中堅企業やファンドの投資先に移ろうとして、思ったほど評価されないことがある。待遇を下げる話ではないのに、話が進まない。

構造はこうだ。大企業のCFOの仕事は、組織と人とシステムが揃っている前提の上での意思決定である。経理も、財務も、IRも、経営企画も、それぞれ部隊がいる。CFOは判断し、方向を決め、社内外に説明する。

中堅企業やファンドの投資先では、その前提が無い。月次が締まるのが翌月末という状態から始まることがある。管理会計が事業の実態を映していないこともある。ここでのCFOは、判断する前に、判断できる材料を自分で作らなければならない。

大企業で長く過ごすほど、この「無い状態から作る」経験から遠ざかる。市場が見ているのは肩書きの大きさではなく、揃っていない状態を動かせるかであり、そこに答えられる経歴かどうかで読み替えられる。経理財務の管理者からCFOへの職務転換については、「経理の親玉」で終わるか、CEOの「副操縦士」となるかが別の角度から扱っている。

分岐は、昇進ではなく資本が動くときに来る

この三つの分岐に共通するのは、自分の昇進とは無関係なタイミングで訪れることだ。

分岐が開くのは、会社に資本イベントが起きたときである。上場する。ファンドが入る。親会社が変わる。事業を売却する。オーナーが承継を決める。このとき、CFOの役割は必ず再定義される。 誰に説明責任を負うかが変わるのだから、仕事の中身が変わらないほうがおかしい。

だから、キャリアを設計するなら「何年後に何になるか」ではなく、自社にこの先どんな資本イベントが起こりうるかから逆算するほうが実際に効く。上場の可能性があるなら、準備だけで終わらせない設計をあらかじめ考えておく。親会社が事業ポートフォリオを見直しているなら、切り出しの側に立つ経験が数年内に来るかもしれない。資本イベントは、経験を一気に更新できる数少ない機会である。

逆に、当面どの資本イベントも起きない会社にいるなら、経験は静かに年を取る。これは能力の問題ではなく、置かれた場所の問題だ。

いま何が積めているかを確かめる三つ

分岐のどこにいるかを知るには、次の三つに答えられるかを見るとよい。

自分の名前で、資本の出し手と話したか。 上司の同席なしで、銀行・投資家・投資委員会に対して数字を説明し、質問を受けたか。同席していただけなら、それは経験として読まれにくい。

数字を作る側に関与したか。 実績を集計する仕事と、実績そのものを動かす仕事は別である。価格、原価、投資判断、撤退判断のどこかに関与していれば、後者に入る。

揃っていない状態を動かしたか。 情報が無い、人がいない、制度が無い状態で、判断できるところまで持っていった経験があるか。これが、規模を超えて持ち運べる唯一の経験である。

三つとも「はい」なら、分岐はまだ開いている。一つも無いなら、肩書きが何であれ、市場から見た選択肢は狭まっている可能性が高い。

当社はPEファンドの投資先や事業承継など、公開されていない経営ポジションを扱っている。こうしたポジションでは、資本構成が変わる局面でCFOの要件そのものが書き換わる。経営者としてのキャリアをお考えの方へで、扱っているポジションの性質を説明している。