CFOの転職に半年から1年かかるのは、選考が長いからではない。退任日と就任日が、それぞれ別の暦に縛られているからである。

退任日を決めているのは決算と監査の暦であり、就任日を決めているのは株主総会の暦だ。この二つは同じ会社の都合ではなく、辞める会社と迎える会社で別々に動いている。 現場の部長職の転職なら「引き継ぎ1ヶ月、翌月入社」で収まるが、CFOでそれが起きないのは意欲や誠実さの問題ではなく、暦が重ならないからである。

以下、二つの暦がどう効いているのかと、そこから逆算した動き方を整理する。

退任日を決めているのは、決算と監査の暦である

CFOが抜けた瞬間、会社には代わりが誰もいない仕事が残る。決算の締め、会計監査人への対応、開示書類への署名、金融機関との折衝である。これらは年間の特定の時期に集中していて、その真ん中で担当者が入れ替わると、会社は期日を落とす。

上場企業であれば、事業年度末から決算短信、有価証券報告書の提出、定時株主総会までが一本の線でつながっている。有価証券報告書は事業年度経過後3ヶ月以内の提出が原則であり、3月決算なら4月から6月がまるごと動けない期間になる。非上場でも、金融機関に決算書を出し、税務申告を終えるまでの流れは同じ形をしている。

だから実務上、CFOの退任日は「本人が辞めたい日」ではなく「次の決算を誰が締めるか」で決まる。 期末をまたいで抜けるなら後任に引き継げる状態を作るか、期末の締めまでは残るか。どちらかになる。

この期間は会社を守るための猶予でもあるが、同時に本人を縛るものでもある。取締役の辞任そのものは、委任契約の解除としていつでも申し出ることができる。ただし相手に不利な時期の解除には損害賠償の問題が生じ得るとされており、この論点は退任とは?辞任・解任との違いと役員退職金への影響で詳しく扱っている。決算期直前の辞任が実務上ためらわれるのは、この「不利な時期」に当たりやすいからでもある。

つまり退任側の暦は、こう読める。

  • 期末の3ヶ月前から決算・監査・開示が終わるまでは、抜けにくい
  • 役員退職慰労金の支給には株主総会の決議が必要なので、総会の前に辞めると決議を待つ時間が生じる(役員退職慰労金に潜む不支給リスク)
  • 後任が決まっていない場合、法律上の員数を割ると退任の効力そのものが先送りになることがある

就任日を決めているのは、株主総会である

迎える側にも別の縛りがある。取締役としてのCFOに就任するには、株主総会の決議が必要だからだ(会社法329条1項)。内定を出し、本人が承諾し、報酬条件が固まっても、総会が開かれるまで法律上の役員にはならない。

選択肢は二つしかない。

  1. 次の定時株主総会を待つ。 3月決算なら6月下旬。1月にオファーが出ても、就任は半年先になる
  2. 臨時株主総会を開く。 株主が少数に集中している会社、たとえばPEファンドの投資先やオーナー企業なら、これは現実的に早く回る

ここが、CFOの転職で「いつ入れるか」が会社によって極端に違う理由である。株主が分散している上場企業では臨時総会の招集そのものが重い手続きになり、事実上は定時総会待ちになる。一方、株主が一社か数名の会社では、決議は数週間で通る。

※定時株主総会と臨時株主総会: 定時株主総会は事業年度ごとに決算の承認などを行うために毎年開かれる総会で、日程は決算期に連動して固定されている。臨時株主総会は必要に応じて随時開くことができる総会で、役員の選任もここで決議できる。招集の手間と株主構成しだいで、開けるかどうかが変わる。

株主構成は、報酬条件と同じくらい着任日を左右する変数である。 選考の段階で「株主は誰か」を聞くのは、条件の探りではなく日程の確認でもある。

二つの暦がずれるから、間が空く

ここまでを重ねると、遅さの正体が見える。

退任側は「決算が終わるまで残ってほしい」と言い、就任側は「総会で選任されるまで役員にはできない」と言う。どちらも正当で、どちらも動かせない。 3月決算の会社を6月末に退任し、迎える側も3月決算なら、次の定時総会は翌年6月である。何もしなければ、ここで1年が空く。

実務ではこの穴を埋めるために、二段構えで入る形がよく使われる。

まず執行役員CFOや財務担当の使用人として先に入社し、次の定時株主総会で取締役に選任される、という順序だ。執行役員は会社法上の機関ではないため、株主総会の決議を要さず、取締役会の決議や社内規程で任命できる。だから総会を待たずに着任できる。

ただしこの形には見落としやすい点がある。取締役に選任されるまでは、取締役会の議決権がない。 議案の説明はできるが、決議には加われない。本人は「CFOとして入った」と思っていて、実際には重要な決定に票を持っていない期間が数ヶ月続く、という状態が起こり得る。

だから二段構えを提案されたときに確認すべきは、次の3点になる。

  • 取締役への選任を、いつの総会で決議するのか。 「次の総会で」という口頭の合意は、議案として上程されて初めて意味を持つ
  • その間の契約は雇用か委任か。 雇用で入って役員になる場合、就任時に雇用契約が終了し、従業員としての退職金が打ち切り支給になることがある(CEO・取締役は「正社員」ではない)
  • 議決権を持たない期間に、何を任されるのか。 決裁権限規程を先に見せてもらうのが早い

逆算すると、動き出す時期は決まっている

以上から、CFOが転職を考えるときの現実的な時間割はこうなる。

期末の直後、決算と監査が終わった直後が、いちばん動きやすい。 引き継ぎの対象がひと区切りついていて、退任側の抵抗がもっとも小さい。次の定時総会までの時間も長く取れる。

逆に、期末の直前に動き始めると、退任側の暦と就任側の暦が両方とも最悪の位置に来る。 締めの真ん中で抜けられず、総会も過ぎたばかりで次は1年後になる。

選考自体にかかる時間も、他の職種より長い。財務モデリングの課題や、取締役会・株主との面談が入るためだ(PEファンドのCFO選考を突破する「財務モデリング試験」対策の本質)。選考に3ヶ月、退任の調整に3ヶ月、就任までの待機に0〜6ヶ月。 半年から1年という幅は、ここから出ている。

この時間割を知っているかどうかで、選考での見え方が変わる。 「早く入れます」と答える候補者より、「決算を締めてから抜けます。御社の総会は6月ですね」と言える候補者のほうが、迎える側には信用できる。前者は前職を雑に畳む人に見え、後者は自分の職責の重さを分かっている人に見えるからだ。

半年先の話を、半年前に始めるために

ここまで書いてきたことは、裏を返せば求人が出た時点で動くのでは間に合わないという話でもある。迎える側が「次の総会で選任したい」と考え始めるのは総会の半年前であり、そのときに候補者がいなければ、話は翌年に送られる。

CFOの席が公開の求人市場にあまり出てこないのも、一因はここにある。日程が先に決まっている採用は、公募で人を集めてから選ぶ時間の余裕がない(「穴場な求人・CFO」が公開市場に決して出回らない構造的理由)。

私たちは、PEファンドの投資先や事業承継など、表に出てこない経営ポジションを扱っている。その立場から見ていて思うのは、CFOの転職で一番もったいないのは、条件が合わなかった場合ではなく、日程が合わなかった場合だということだ。条件は交渉できるが、総会の日は動かない。

いま転職を決めていなくても、次の期末がいつで、その後に動ける窓がどこにあるのかだけは、先に把握しておく価値がある。 具体的な席の話は、その窓に合わせて出てくる。経営ポジションをお探しの方へから、現在の状況と動ける時期をお知らせいただければ、日程の合う案件があるときにご連絡します。