ベンチャーのCFOになりたいと考えて、「ベンチャーCFOに強い転職エージェント」を探す。登録する。そして案件が出てこない。

これは、経歴の問題でも、登録先の選び方の問題でもありません。若いラウンドのCFOの席は、紹介手数料を払う原資がないため、そもそもエージェントに回っていないからです。

席は存在します。埋め方が違うだけです。この記事では、どの段階からエージェント経由になるのか、それ以前の段階に入りたい人は何を使うのか、そして初回面談で在庫を見分ける3つの質問を書きます。

補助線は「その手数料を、誰の現金で払うのか」

人材紹介の成功報酬は、一般に採用した人の理論年収の3割前後が相場です。CFOの年収を1,500万円とすれば、400万円台から500万円の支出になります。

※理論年収と成功報酬: 理論年収は月給や想定賞与から計算した年収の見込み額です。紹介会社への報酬はその一定割合で、入社が決まった時点で会社が払います。採用できなければ払いません(成功報酬型)。

この金額を、シードやシリーズAの会社の立場で見てみます。手元の現金は、投資家から株式と引き換えに預かったものです。何に使うかは、投資家と合意した計画に紐づいています。

※シード・シリーズA: ベンチャーが資金を調達する段階の呼び方です。シードが最初期で、以降シリーズA・B・Cと進みます。段階が進むほど調達額は大きく、会社の体制も整っていきます。

採用の予算はもちろんあります。ただし、エンジニアを2人採るか、CFOの紹介手数料を払うかという比較になったとき、事業の数字に直結する方が勝ちます。 これは経営判断として正しい選択です。

結果として、若い会社のCFOの席は、現金が出ない経路で埋まります。

  • 投資家(ベンチャーキャピタル)の紹介
  • 社長の個人的な繋がり、過去の同僚
  • 同じ投資家が出資している別の会社からの横移動

だから「ベンチャーCFOの求人」がエージェントに溜まらないのです。 席が少ないのではなく、席がそこを通らない。ここを取り違えると、登録先を増やす方向に時間を使ってしまいます。

そもそも「ベンチャーCFO」は一つの職種ではない

もう一つ、在庫が見つからない理由があります。段階によって、CFOという言葉の中身がまったく違うことです。

シードからシリーズA。 管理部門の最初の一人です。経理の締め、労務、契約書のレビュー、資金の見通し。肩書きはCFOでも、実際はコーポレート全般を自分の手で回す仕事です。ここで要るのは、自分でやる人です。

シリーズBからC。 資金調達の顔になります。事業計画を投資家に説明し、条件を交渉する。数字の整合だけでなく、会社の物語を数字で語れるかが問われます。

上場準備。 監査法人と主幹事証券会社と向き合い、内部統制と開示の体制を作ります。ここには期限があります。 期限があるから、お金で時間を買う判断が成立します。

※主幹事証券会社: 上場の準備から売り出しまでを中心的に担う証券会社です。上場準備では、会社の管理体制について繰り返し確認を受けます。

上場後、あるいはPEファンドの投資先。 開示と予算統制、そして価値創造計画の実行です。ここはもう、ベンチャーの話ではありません。

この4つは、求められる筋肉が別です。だから「ベンチャーCFOに強い」という在庫の持ち方は、構造的に成立しません。 段階が違えば、別の人を探しているからです。IPO前とPEファンド投資先で仕事がどう違うかはCFOの転職は、IPO前かPEファンド投資先かで別の仕事になるに書きました。

エージェントが効くのは、現金で手数料を払える段階

逆に言えば、次の段階に入った会社の席は、エージェントに回ってきます。

1. 上場準備に入った会社。 監査法人と主幹事が入ると、管理体制の整備が期限付きの要件になります。社長の知り合いを待つ時間がありません。採用の費用も、上場準備の費用の一部として稟議に乗ります。

2. PEファンドの投資先。 投資の実行後、経営体制の入れ替えは投資計画の一部です。採用のコストはファンドか投資先の予算として最初から見込まれています。

3. 大型調達後のレイトステージ、または事業会社の傘下。 現金の制約が外れ、採用に外部を使う判断ができます。

この段階では、着手金を払って探索を依頼する形(リテーナー型のサーチ)も成立します。

※リテーナー型: 採用が決まったかどうかに関わらず、探索の開始時点から費用を払う契約です。成功報酬型と違い、依頼した側が「探してもらう」立場になります。表に出せないポジションで使われます。

つまり選ぶ基準は「ベンチャーに強いかどうか」ではありません。自分が狙う段階の会社と、そのエージェントが実際に取引しているかどうかです。エージェントの在庫が発注元の種類で決まる構造そのものは役員の転職エージェントは「どこがいいか」では選べないに整理しています。

若い段階に入りたいなら、経路が違う

シリーズAやBの会社のCFOとして入りたい場合、エージェントを窓口にするのは効率が悪いままです。使う経路は次の3つです。

投資家側に接点を作る。 規模のあるベンチャーキャピタルには、投資先の採用を支援する担当がいます。キャピタリスト本人も、投資先のCxOを探しています。彼らにとって、信頼できるCFO候補の名簿は仕事の道具です。

投資先の一覧から逆算する。 ベンチャーキャピタルは投資先を公表しています。調達の時期と金額は報道されます。調達の直後は、管理体制を作る必要が生まれる時期です。 そこに直接当たるほうが、求人を待つより早い。

同じ投資家の別の投資先へ横移動する。 一度どこかの投資先に入れば、次の席はこの経路で来ます。これが実際にいちばん多い動き方です。

そのうえで、エージェントに期待することを変えると使い道があります。案件の紹介ではなく、段階の見極めと、条件の相場、ストックオプションの条件の読み方です。ここは情報を持っている側に聞いたほうが正確です。

初回面談で確かめる3つ

「ベンチャー案件はありますか」と聞いても、「あります」と返ってきます。事実を聞きます。

  1. 「直近1年で決まったベンチャーのCFOは、どの段階の会社でしたか」 — シリーズBなのか、上場準備なのか。即答できないなら、その領域の実績はありません
  2. 「その紹介手数料は、誰が払いましたか」 — 会社の現金か、投資家側か。ここに答えられる人は、取引の構造を知っています
  3. 「ストックオプションの条件交渉に入ったことはありますか。何を変えましたか」 — 付与の株数を増やした話で終わるか、行使条件や退職時の扱いを変えた話が出るか

3つ目が、実務ではいちばん差が出ます。

条件を見るときに、株数だけを見ない

ベンチャーのCFOの報酬は、現金が低い代わりにストックオプションで補う形が一般的です。ここで株数の多さだけを見ると、見落としが出ます。

※ストックオプション: あらかじめ決まった価格で自社株を買える権利です。会社の価値が上がってから権利を使えば、差額が利益になります。ただし権利を使える時期や条件に制約があり、多くの設計では退職すると失効します。

確かめる順番は、株数より先に次の3つです。

  • 発行済株式数に対する割合。株数の絶対値は、総数が分からなければ意味を持ちません
  • 権利を行使できる条件と時期。上場が条件になっているか、在籍年数の条件があるか
  • 退職した場合の扱い。失効するのか、一部は残るのか

CFOの席が何をきっかけに生まれ、どのエージェントがそれを握っているかという構造はCFOの転職エージェントは「CFOに強いか」では選べないに書いています。あわせて読むと、段階と窓口の対応が見えるはずです。

まとめ

  • 若いラウンドのCFOの席がエージェントに回らないのは、紹介手数料を払う原資がないから。席が少ないわけではない
  • 若い会社の席は、投資家の紹介・社長の繋がり・同じ投資家の投資先間の移動で埋まる
  • 「ベンチャーCFO」は4段階で中身が違う。だから「ベンチャーに強い在庫」は構造的に成立しない
  • エージェント経由になるのは、上場準備・PEファンド投資先・レイトステージ。期限か投資計画があり、現金で払える段階
  • 選ぶ基準は「ベンチャーに強いか」ではなく、狙う段階の会社と実際に取引しているか
  • 若い段階を狙うなら、ベンチャーキャピタルの担当者、調達直後の会社への直接接触、投資先間の横移動
  • 初回面談では、決まった会社の段階・手数料を払った主体・ストックオプションの条件交渉の経験を聞く
  • 条件は株数ではなく、発行済株式に対する割合・行使条件・退職時の扱いの順で見る

非公開の経営ポジションについては経営者としてのキャリアを考える方へにまとめています。