CBO(Chief Branding Officer/ブランディング責任者)の打診を受けたときに最初に確かめるのは、組織図でも予算の規模でもありません。**「この商品の値段を上げると決めるのは、最後は誰か」**です。

理由は単純です。ブランドが効いたかどうかは、同じものを前より高く売れたかに表れます。認知率も好感度もSNSの反応も途中の数字で、最後は価格と離反率に出ます。だから価格の決裁が別の人にあるなら、その席で出せる成果は広告と世界観の出来栄えまでで止まります。それなのに評価は売上で行われます。

この記事では、なぜその権限が付いてこないのかという構造と、面談で確かめる質問を書きます。

ブランドの成果は、価格でしか証明できない

ブランドの定義は、実務上は一行で足ります。同じものに高い金を払う理由です。

だから成果の出方も決まっています。値段を上げても客が離れない。値引きしなくても売れる。競合が安く出しても自社の数量が落ちない。この3つはすべて価格に紐づいた現象です。

一方で、ブランド責任者が追いやすい指標は別のところにあります。認知率、好感度、指名検索の数、SNSのフォロワー、受賞歴。これらは中間の数字で、価格に転換されない限り損益には出ません。 中間の数字をいくら積んでも、「で、利益はどうなった」という問いには答えられない構造です。

ここを押さえておくと、席の良し悪しが一つの基準で判定できます。価格を動かせる席か、動かせない席か。 動かせない席は、中間の数字までを成果として受け入れてもらう合意が先に必要になります。

なぜ、値付けの権限は付いてこないのか

CBOは会社法上の役職ではありません。会社が必要に応じて作る席です。では、なぜほぼ例外なく価格の権限が外れた形で作られるのか。これは担当者の了見の話ではなく、利害が構造的に逆向きになっているためです。

価格は売上計画と直結しています。値上げすれば数量が落ちるリスクがあり、落ちた分の責任は当期の売上を預かっている人が負います。営業や販売の責任者から見れば、値上げは自分の評価期間の中で損が出て、利益が出るのは次の人の任期という取引です。合理的に判断すれば反対します。

一方でブランドへの投資は、効果が遅れて出ます。半年や1年では、費用が先に立ちます。つまり長期の価値を担う席が、短期の数字を預かっている人に価格を握られているという設計になります。

この形で入った人が1年で苦しくなるのは、能力の問題ではありません。打てる手が販促しかないまま、売上で評価されるからです。責任の範囲と権限の範囲がずれた席の読み方は「権限なき責任者」を避けるための3つの確認でも扱っています。

権限が付くかどうかは、席が生まれた理由で決まる

同じCBOという名前でも、席が作られた局面によって価格の扱いが変わります。打診の背景を聞けば、ある程度まで事前に読めます。

消費財・小売に新しい資本が入った直後。 ここは価格の権限が付く可能性が最も高い局面です。投資の仮説そのものが「安売りをやめて単価を上げる」である場合、値上げは経営計画の中心にあります。ブランド責任者の仕事が価格と不可分だと、資本の側が理解しています。

複数のブランドを統合した後。 統合の目的は多くの場合、重複の削減です。価格は事業側が握ったままになりやすく、ブランド責任者に渡されるのは「統一した見え方を作る」仕事になります。

創業者やオーナーの世界観を引き継ぐ局面。 価格は創業者が最後まで握ります。ここでの仕事は、言葉になっていない基準を言語化して組織に移すことです。価値のある仕事ですが、成果の判定者が一人なので、評価軸は定量化されません。この席は、報酬と任期で判断するほかありません。

面談で聞く3つの質問

曖昧な聞き方では曖昧な答えしか返りません。具体的な場面で聞きます。

1.「主力商品の価格を10%上げると決めるには、誰の承認が必要ですか」 名前が出てくるか、「社長と営業本部長の合意」のような手続きが出てくるかを見ます。「ブランド側で決められます」と即答される会社は、実際には値上げを議題にしたことがない可能性もあるので、直近で価格を変えた例を続けて聞きます。

2.「ブランドへの投資は、どのP&Lの費用になりますか」 自分の管轄の費用なら、投資の判断を自分で握れます。事業部の費用なら、毎回事業部長の同意が必要になります。費用の置き場所は、実際の決裁権の所在を正直に示します。

3.「前任はいましたか。いたとして、社内では何が足りなかったと言われていますか」 新設なのか、人が辞めた後なのかで難易度が変わります。「経営への発信力が足りなかった」という答えが返ってきたら、権限ではなく人のせいにされた可能性を疑います。同じ構造が自分にも適用されます。

価格が付かない席を、それでも引き受けるなら

打診の多くは、価格の権限が付かない席です。そこで全部断るという判断は現実的ではありません。代わりに、価格以外で損益に触れる経路を1つ確保するという条件の付け方があります。

ひとつは商品を1つ持つこと。 新しいラインを自分の判断で作れるなら、価格はその中で自分が決められます。小さくても、ブランドの投資が利益に変わる経路が手元にできます。

もうひとつはチャネルを1つ持つこと。 直営店やD2Cのように、自社で値段を決められる売り場です。既存の卸や量販の価格を動かせなくても、自分の売り場での単価と離反率で証明できます。

どちらも無く、持っているのが販促予算だけであれば、それは宣伝部門の責任者の席です。 悪い席という意味ではありません。ただ、その前提で報酬と任期を見るべきで、経営に参画する席として引き受けると齟齬が出ます。

なお、職務経歴書の側でも同じ論点が効きます。過去の実績を「認知を上げた」で書くと販促の人と読まれ、「単価を上げた・値引き率を下げた」で書くと経営の人と読まれます。書き分けについては取締役の職務経歴書は何が違うのかにまとめました。

肩書きが同じでも中身が分かれる構造は、CSOでも同じことが起きています(転職サイトの「CSO」は、三つの別の仕事を指している)。肩書きで探すと外します。確かめるのは、最後に決める人が誰かです。

弊社では、PEファンド投資先や事業承継などの非公開の経営ポジションを扱っています。こうした席の権限がどう設計されているかを含めて確認したい場合は経営者としてのキャリアをお考えの方へをご覧ください。