CxO(CEO・CFO・COOなど、機能ごとの最高責任者)という職の需要は、これからも増える。ただし、増えているのは「席」ではなく「期限のついた局面」である。

この違いを踏まえずに将来性を測ると、判断を誤る。求人の件数が増えていることと、自分の市場価値が上がることは、同じ話ではないからだ。以下、需要がどこから生まれているのか、そして将来性を個人の側で測るなら何を単位にすべきかを順に見ていく。

需要の源泉は3つあり、いずれも「日付」を持っている

CxOの募集が生まれる場面は、大きく3つに分かれる。共通しているのは、どれも外から日付が刺さっているという点だ。

第一に、資本が入れ替わるとき。 PEファンドが投資を実行した直後、あるいは大企業が事業の一部を切り出すカーブアウト(親会社から事業を分離し、独立した会社として運営できる形にすること)の直後である。投資には回収の時期がある。だから経営体制の組み替えは「いつか」ではなく「この期間で」進む。

第二に、承継が起きるとき。 オーナー経営者の引退という日付が先にあり、親族や社内に継ぐ人がいなければ、外から経営を担う人を入れるしかない。ここでも時間は伸ばせない。

第三に、執行と監督の分離が進むとき。 社外取締役を増やし、取締役会を監督の場に寄せていくと、執行の側に「誰が決めるのか」を名前で示す必要が出てくる。CxOという役職名が広がった背景には、この構造変化がある。

3つとも、景気の波ではなく制度と資本の側から来ている。だから需要そのものは、当面なくならない。

景気が落ち込めば需要も減るのではないか

減る部分と増える部分がある。減るのは、成長を見込んで新しく置くポジション——事業拡大に合わせた増員としてのCxOだ。

一方で増えるのは、資本の側の事情から生まれる局面である。資金調達の環境が締まれば、ファンドは既存の投資先を持ち続ける期間が延び、その分だけ「持っている間に価値を作る」担い手が要る。事業の選択と集中も進むため、切り出される事業の数はむしろ増える。承継に至っては、経営者の年齢という変数で動いているので、景気とは連動しない。

つまりCxOの需要は、好況で伸びる部分と、不況で伸びる部分の両方を持っている。 総量が急に消えにくいのは、このためだ。

ただし、「CxOの席」と「決裁のある席」は別物である

一方で、増えた分がそのままキャリアの機会になるわけではない。

役職名は、置くだけなら費用がかからない。組織図にCxOを並べても、予算の決裁、人の採用と入れ替え、事業からの撤退といった権限が伴っていなければ、実態は上級管理職のままである。肩書きは増えるが、決裁は増えない。 この二つは別々に動く。

だから求人票を読むときは、役職名ではなく決裁の記述を見たほうがいい。何をどこまで自分の判断で決められるのか。誰の承認が要るのか。取締役会に議案を出す立場なのか、出された議案を実行する立場なのか。ここが曖昧なまま入ると、責任だけが先に来る。

同じ理由で、決議に加わらない立場での経験は、次の選考で経営経験として読まれにくい。この構造は執行役員の転職は「役員経験」として読まれないで詳しく整理している。

将来性は「在任年数」ではなく「局面」に貯まる

経営人材を採る側は、これから自社に起きる局面を先に見ている。投資直後の立ち上げなのか、収益構造の作り替えなのか、売却の準備なのか、承継の受け渡しなのか。そして、同じ局面を通った人を探す。

照合の単位が局面である以上、経験も局面の単位で貯まる。平時の運営を長く担当したことは、それ自体では次の席の理由になりにくい。逆に、期間が2年でも、資本の入れ替わりを一度通していれば、その2年は具体的な話として読まれる。

これは、経験の価値が「時間×責任」ではなく「不確実性×引き受け」で測られているということでもある。判断材料が揃っている状態で正しく運営したことよりも、材料が足りない状態で決めて、その結果を引き受けたことのほうが強く効く。

だから将来性を高めたいなら、席の格ではなく、次の3年でどの局面に立てるかで選ぶことになる。カーブアウト先のCxOのように、条件は厳しいが局面が明確なポジションが選ばれるのは、この理屈による(カーブアウト企業のCXOという「極端なキャリア」)。

逆に、市場価値が伸びなくなる3つの働き方

裏側から見ると、需要が増えている市場でも価値が伸びない働き方がある。

  1. 平時の運営だけを長く続ける。 組織は回っているが、資本イベントも承継も通らない。年数だけが増える
  2. 決裁のない肩書きを重ねる。 CxOの名刺が3枚になっても、決めた経験がなければ、読まれるのは1枚分にもならない
  3. 局面の途中で降りる。 結果が確定する前に離れると、何を作ったのかを他人が確認できない。事情はどうあれ、次の相手には「途中まで」としか見えない

3つ目は残酷だが、採る側の視点に立てば理解できる。彼らが確認したいのは意欲ではなく、同じ状況で最後まで持ちこたえた事実である。

10年後も残る仕事はどこか

経営の仕事のうち、情報を集める、比較する、資料にまとめるといった部分は、これから急速に安くなる。すでに、分析の下ごしらえに人手をかける必要は薄れつつある。

それでも残るのは、情報が足りない状態で決める部分と、決めた結果を引き受ける部分である。責任は外部化できない。取締役会や株主に対して名前を出して説明する人が要る、という構造も変わらない。

CxOの将来性とは、要するにこの残る部分に賭ける話だ。だとすれば、備えるべきものもはっきりする。分析力や知識量ではなく、判断の履歴である。どの局面で、何を、どういう根拠で決めたか。それを自分の言葉で説明できる状態にしておくことが、そのまま次の席への準備になる。

私たちは、PEファンドの投資先や事業承継など、表に出てこない経営ポジションを扱っている。そこで交わされる会話も、経歴の長さではなく、どの局面をどこまで引き受けたかに集中している。